カスタマージャーニーマップ(CJM)とは、ある商品やサービスを利用する理想的な顧客像(ペルソナ)をもとに、その顧客が購入前から利用後に至るまでの「行動」「思考」「感情」の流れを可視化したものです。
このカスタマージャーニーは、主に以下の2つの要素で構成されます。
ペルソナは1980年代、ソフトウェア開発においてユーザーフレンドリーな設計を実現するために考案された概念です。
一方、カスタマージャーニーマップは1990年代、ユーザー中心設計の考え方から発展し、現在ではマーケティング領域でも広く活用されています。
こうした「顧客視点のマーケティング」を支える手法として、カスタマージャーニーは非常に有効ですが、実際の現場では「古い」「実態と合っていない」「ずれてきた」といった課題を抱えることも少なくありません。
その原因の多くは、施策実施後のカスタマージャーニーの見直しや更新が十分に行われていないことにあります。
今回のコラムでは、なぜカスタマージャーニーが陳腐化するのか?そして、常に“現場にフィットした状態”を維持するための具体的なアクションについて、わかりやすく解説します。
施策をいくつか実施した後、「このカスタマージャーニー、何かおかしいかもしれない…」と違和感を持ち始めるケースは少なくありません。
特に、期待した成果が出なかったときに、「このジャーニー設計が間違っているのでは?」「どこかにズレがあるのでは?」と感じる担当者の声をよく耳にします。
フュージョンでは、カスタマージャーニーの設計を支援するワークショップを提供していますが、その最後に必ずこうお伝えしています。
「カスタマージャーニーは“作って終わり”ではなく、施策実行後にこそ見直しとチューニングが必要です。」
このメッセージには前提があります。
それは、カスタマージャーニーには“ズレ”が起きるものだということです。
というのも、ジャーニーは基本的に“仮説”に基づいて設計されるため、完璧な正解が最初から存在するわけではありません。
作成から時間が経つにつれて、社会環境や市場動向の変化、新たなメディアの登場、テクノロジーの進化などによって、顧客の行動や感情、接点が変わっていくのは当然のことです。
つまり、最初に描いたカスタマージャーニーとのズレが生じるのは自然な流れであり、それに気づいて調整していく作業こそが本質的なマーケティング活動と言えます。
カスタマージャーニーの見直し=運用の本番とも言えるのです。
ズレを前提にし、行動・感情・タッチポイントの違和感を一つずつ修正していくことで、ジャーニーを“使える状態”に保ち、陳腐化を防ぐことができます。
フュージョンでは、ペルソナから設計するカスタマージャーニー(CJM)設計シートを公開しています。貴社のCJM見直しの際にご活用ください。
カスタマージャーニーマップ(CJM)において、最初に“ズレ”を感じやすいのは、行動・感情・接点という要素に基づいて施策の実行計画が立てられるからです。
つまり、CJMは「施策の起点」となるため、成果が出ていないときに違和感を覚えるのは自然な流れです。
施策がうまくいっている間はズレに気づくことはほとんどありません。
しかし、成果が徐々に出にくくなってきたり、期待通りの反応が得られなくなると、「もしかしてこの設計、今の顧客の実態と合っていないかも…」という疑問が浮かび上がってきます。
では、実際にズレを感じたときは、どこから手を付けるべきでしょうか?
ここでは、情報を受け取ってから閲覧するまでの一連の行動と感情、その引き金となるタッチポイントを設定した、シンプルなCJMを例に見ていきます(図1)。
行動:
「情報を受け取る」→「詳しい情報を手に入れる」
接点(タッチポイント):
eDM(メール配信)とLP(ランディングページ)
感情:
「これは自分にとって有益な情報?」→「ちょっと面白そう」→「もう少し内容を見てみたい」→「なるほど、なんとなくわかった」
このように、CJMでは行動を2~3ステップで表現することが多いですが、実際にはもっと細かいプロセスが存在します。
たとえば:
「eDM(メールマガジンなど)を受け取る」→「メールを確認する」→「メールを開封する」→「本文を読む」→「CTAをクリックする」→「LPに遷移する」→「LPの内容を読む」といったように、行動のプロセスは分解することができます。
この流れの中で離脱が多いポイントが「メールを開封する」「CTAをクリックする」などであれば、まず見直すべきはCJMそのものではなく、「メッセージ内容がターゲットに響いているかどうか」です。
逆に、メールマガジンやキャンペーンメールではなく、他のチャネル(SNS、検索、広告など)から情報を得ているユーザーが多かったり、そもそもメールが届いていないことが分かった場合は、接点自体の見直しが必要になります。
その結果として行動が変わる場合、行動の再設計も必要になります。
さらに、接点や行動の変化にともなって顧客の感情も変わるなら、感情の見直しも行うべきです(図2)。
つまり、CJMのズレを検証する際には、まず「メッセージの問題か、それ以外の構造的な要素(接点・行動・感情)か」を切り分けることが大切です。
このように、違和感があるときは、CJM全体をすぐに作り直すのではなく、段階的かつ論理的に見直す視点がポイントです。
カスタマージャーニーを設計してから時間が経つと、次第にCJM(カスタマージャーニーマップ)だけでなく、「ペルソナそのものが現実と合っていないのでは?」と感じるようになることがあります。
これは、初期に設計したペルソナに基づいて施策を継続していくうちに、実際の顧客から得られる定量・定性的データが蓄積されていくことで、モデルとして想定していた顧客像と、実際の顧客像との間にギャップが生まれることが原因です。
このタイミングでマーケターは次の選択を迫られます:
「ペルソナを修正するか?それとも新しく設計し直すか?」
判断の基準は以下の通りです:
なぜなら、基本的プロフィールが異なる場合は、行動や感情といった他のプロファイルにも影響を及ぼす可能性が高いからです。
ペルソナを修正するにしても、新しく設計するにしても、それに応じてCJMも見直すことが重要です。
見直しの際は、まず「接点」と「行動」から再検討することをおすすめします。
その理由は、たとえばあるステップで「もっと詳しく知りたい」という感情が発生するとして、感情そのものは変わらなくても、接点やそこでの行動が変わる可能性が高いからです。
この変化は、社会環境・技術進化・メディアの変化・生活様式などの外的要因が影響しているため、同じ感情でも異なる接点・行動が導線になる可能性があるという点を意識する必要があります。
「カスタマージャーニーはどれくらいの期間で見直せばいいのか?」についてですが、これに対して明確なルールはありません。
ただし、施策ごとに振り返りの習慣を持つことが重要です。
まずは、施策終了後に「メッセージが適切だったかどうか」を検証します。
そのうえで成果が出ていれば、さらに効果を高めるために、出ていなければどこに原因があるのかを見極め、必要に応じてCJMの修正を行う流れになります。
また、ペルソナの見直しに関しては、一度や二度の施策結果だけで判断せず、ある程度の施策回数とデータの蓄積があったうえで再設計を検討するのが適切です。
今回のコラムでは、顧客視点のマーケティングに欠かせないカスタマージャーニーの「設計と見直し」について、その重要性と具体的な検討ポイントを解説してきました。
繰り返しになりますが、今の顧客は多様な情報メディアや進化するテクノロジーに日々触れており、その行動や感情、態度の変化スピードは、かつてないほど速くなっています。
だからこそ、「一度作って終わり」のカスタマージャーニーでは、すぐに実態とのズレが生まれ、結果的に施策の成果にも影響を与えてしまいます。
大切なのは、「せっかく作ったから当面このままで…」という意識ではなく、施策を通じて得られた気づきを反映し、次につなげる視点で“常にチューニングしていく”姿勢です。
フュージョン株式会社では、30年以上にわたり、BtoC企業を中心にCRMやロイヤルティプログラムの戦略立案から施策設計・運用支援までを一貫してご支援してきました。
今回ご紹介したようなカスタマージャーニーの設計や見直し支援はもちろん、
必要に応じて顧客データの分析を行い、仮説だけでない実態に即したジャーニー設計を実現します。
また、設計・見直しにあたっては、ワークショップ形式での支援も可能です。
事前準備の伴走や、当日のファシリテーションなど、クライアント企業のご状況に合わせた柔軟な対応が可能です。
このようなお悩みがある方は、まずはお気軽にご相談ください。