フュージョン株式会社では、長年クライアント企業のCRMをご支援させていただいている関係もありCRMの見直しのご相談を受けることがあります。
見直しのきっかけの多くは「効果が上がらない」「費用が掛かりすぎる」「そろそろ新しい施策を追加したい」などの社内からの声、つまり内的要因に起因する場合が多いのは事実です。
一方で「競合が新しいことを始めた」「お客さんの行動に変化がある」「プログラムをとりまく環境が大きく変わった」などの外的要因による見直しは、社内ではなかなか理解されず後回しになるケースも少なくなく、相談される担当の方が悩まれているケースも多くありました。
しかし外的要因の変化における見直しこそが本来は一番大事であり、いかに対応していくかが競争力維持のために重要です。
そこで今回のコラムでは、外的要因の変化が戦略や施策にインパクトを与えた例として2021年の会計基準改正の話をとりあげ、この時の会計基準の変更はどのようなものであったのか、その変更がなぜポイントプロプラムに影響を与えたのか、その結果企業はどのような対応をとる必要があったのかを解説していきます。
ポイントプログラムの概要については別コラムで解説していますので、あわせてご覧ください。
| 【目次】 2021年の会計基準適用による最も大きな影響とは 従来の会計処理下でのポイントプログラムの扱い 新会計基準におけるポイントプログラムの会計処理 2021年の会計基準によるポイントプログラム戦略への影響 ポイントプログラム戦略は外的要因にも影響を受ける |
本題に入る前に会計基準について初めに触れておきます。
会計基準は企業会計の根幹となっているもので数年おきに改正がされています。前回の改正は2025年でした。
今回例に取り上げるのは2021年4月に改正された、「収益認識に関する会計基準の適用(以下、新収益認識基準)」の部分で、この部分がポイントプログラムを行っている企業に影響を与えました。
この改正以前のポイントプログラムにおける会計の原則は、企業会計原則で「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とあるだけで曖昧だったため、売上計上するタイミングは企業にゆだねられていました。
一方、国際会計基準では2018年1月にポイントプログラムの収益認識に関してIFRS第15号で基準を明記していました。
ちなみに、収益認識基準とは、「売上をどのタイミングでどれだけ計上するか」の基準を明確に示したもので、実際には5つの段階で売上をあげることを基準とし、会計基準の強制適用対象となる大企業や上場会社は、この基準に基づき売上を適切なタイミング、適切な金額で計上しています。
当時ポイントプログラムに関する会計処理のガイドラインは金融庁による2008年7月「ポイント及びプリペイドカードに関する会計処理について(改訂)」しか存在せず、さらにポイントプログラムの会計処理の基準の有無に関して、我が国においては、ポイントについて個別の会計処理の基準等は存在しておらず、ポイント発行企業は、企業会計原則等に則り会計処理をしている。
と記載されており、具体的な基準がないことが明記されていました。
その上でガイドラインでは3つの処理方法
ポイントを発行した時点で費用処理
ポイントが使用された時点で費用処理するとともに、期末に未使用ポイント残高に対して過去の実績等を勘案して引当金計上
ポイントが使用された時点で費用処理(引当金計上しない)
が明記されていました。
これに基づいて多くの企業ではポイントプログラムの費用を販売管理費に計上していましたが、ポイントプログラムが拡大すると財務上の費用が膨れ上がってしまった企業も少なくありませんでした。
これに対し海外では国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards = IFRS)によって2007年にポイントプログラムの会計の解釈指針が「IFRIC第13号(カスタマー・ロイヤリティ・プログラム)」として公表されていました。
この指針を簡単に説明すると「消費者にポイントを付与した場合、まず売上からポイント付与相当分を繰延収益として引いて売上として計上、ポイントが使用されたときに繰延収益として売上に戻す」というものでした。
そして遅れること約15年、日本でも、2021年の会計基準の変更で収益認識基準においてポイントの取り扱いに関して国際会計基準同様に繰延収益として扱うことを明記したため、同様の処理が必須となりました。
この適応によって各企業のポイントプログラム戦略へどのような影響があったのかをまとめました。
まず影響を受けたのはポイントの付与率です。ポイント付与率は、ポイントプログラムにおける会員の囲い込みとつなぎ止めに関わる部分です。
この改正ではポイントを多く付与するということは、ポイント相当分の売上が繰延収益となるので、会計処理上は売上に計上できない、ポイントを多く付与するとその分売り上げが多く落ち込むというデメリットが浮かび上がりました。
もちろん消費者がポイントを使うと売上に戻すことができるとはいえ、一時的に売上に影響が出るとなると付与率そのものを抑える企業や、キャンペーン時に付与率の大盤振る舞いが難しくなり、通常時のポイントの付与率を改正した企業もありました。
次にポイントに有効期限を設けた、または短縮した企業が増えました。
発行したポイントは会計上繰延収益であり、ポイントが使用された時点で売上に計上します。ということは、ポイントに有効期限がなく、いつまでもポイントを使用しなければ会計上は繰延収益がずっと残っている状態と考えられます。そのために企業はいかにポイントを貯めずに早く使わせるかという事を考えはじめました。
そのための対策としてポイントに有効期限を設定してポイントを貯めてもすぐ使わないといけない状態にすることで、一定期間内にポイントが使用されるので売上に反映することができました。
「貯める」「保持する」だけではなく「使う」も再検討が必要になりました。
例えば、よくある1ポイント=1円であればポイントの償還率は100%です。これを自社商品で償還させた場合は100%で設定しても商品定価>商品原価なので、会員に満足を与えながら事実上の償還率を低く抑えることができ企業にとっては魅力的です。
一方で、プリペイドカードや他社ポイントとの交換の場合は、商品定価=商品原価なので、償還率を100%にすれば企業にとってメリットがなくなり、特典の設計や特典ラインナップの開発にも影響が出ました。
沢山のポイントを集めないと交換できない特典は、逆に長期間多くのポイントを保有させてしまうことになり、結果繰延収益が増えてしまうので見直しを行った企業もありました。
この改正で企業はポイントプログラムの転換を余儀なくされました。
従来のポイントプログラム戦略では「いかに会員を増やすか」「いかに囲い込むか」「いかに離反させないか」という課題をどのような戦略と施策で解決するのかを考えていればよかったのですが、この改正では新たに「ポイント付与の抑制」「繰延収益の早期の回収」という課題を、戦略と施策において解決するのか、今までのマーケティング上の課題と相反する2つの側面からの課題の解決が求められました。
改正前は、ポイントプログラムはプロモーションの一部であり、どちらかと言えばマーケティング施策という捉え方でしたが、改正以降は売上にも影響を与えるという意味で、経営戦略の一部であるという認識に改めた企業も少なくありません。
2021年の会計基準の変更を例に外的要因の変化がポイントプログラムにどのような影響を与え、企業がどのような対応を行ったのかを見てきました。
このようにプログラムそのものに影響を与える外的要因の変化はまれかもしれません。
しかし、ポイントプログラムというのは企業内部でおこる内的要因の影響だけではなく、「外的要因の影響でも見直す必要がある」「大きな影響を与えたこのようなケースでの見直しは当然のこと」「定期的に見直す必要がある」という事を忘れてはいけません。
内的要因、例えば会員数の増減やプログラムの費用、プログラムの導入からの経過年数による陳腐化などによって見直しを検討する企業は珍しくありませんが、外的要因の変更、今回のコラムで言えば会計基準の変更に当たりますが、この変化による変更は後回しにしがちです。
特に最近ではAI等のテクノロジーの利用が社会環境の変化や消費者の生活環境、行動の変化を一層複雑にしていて、その影響によってポイントプログラムの戦略や施策、さらにはロイヤルティプログラム戦略設計の見直しを随時行う必要があります。
フュージョン株式会社では、ポイントプログラムの戦略設計の見直し、施策設計や運用に関するご支援を行っています。
フュージョン株式会社では、30年以上にわたり、CRM支援サービスとしてロイヤルカスタマー育成のためのデータ分析による現状把握から戦略策定、ポイントプログラムの設計・運用支援まで統合的なサポート通じ多くのクライアント企業を支援してきました。
ビジネス戦略のための各種フレームワークを活用した分析レポートや実際に運用中のポイントプログラムを含むCRMプログラムの見直しをしたいと考えている方、さらにはロイヤルティプログラム全般に関するお悩みのある方は、お気軽にご相談ください。
そもそもCRMとは何か、何をしたらよいのか、という観点から解説している資料もご用意していますので、ダウンロードの上、お使いください。
※本コラムでは2021年の会計基準改正のポイント会計処理に関する部分のみを要約しています。2021年の会計基準の変更の全体像や適応によりポイントプログラムに影響を及ぼす範囲、適応の対象となる企業の詳しい条件などの詳細な解説はコラムでは割愛しています。
各企業における新会計基準における会計処理の対応方法に関しては専門家にご相談ください。