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「知らなかった」ではすまない、新会計基準適用後のポイントプログラムへの影響

作成者: Admin|Feb 28, 2022 5:23:00 AM

2021年4月から新会計基準が適用されたのはご存じでしょうか。会計基準は、特にCRMプログラムの一環としてポイントプログラムを自社で運営している企業に大きな影響を与えます。また、2022年3月末で多くの企業が新会計基準での初決算を迎えることから、クライアント企業のマーケティング活動をご支援している当社としても、改めてその内容をおさえておく必要があります。

そこで、今回のコラムでは、新会計基準適用後のポイントプログラムへの影響をマーケター向けに解説します。
なお、新会計基準の全体像や適応により影響を及ぼす範囲、適応の対象となる企業の詳しい条件など、新会計基準に関する詳細な解説は、今回のコラムでは割愛しますのでご了承ください。

 

新会計基準適用による最も大きな影響とは

今回の新会計基準で最も影響があったのは、「収益認識に関する会計基準の適用(以下、新収益認識基準)」です。
今までの原則は、企業会計原則で「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とあるだけで曖昧だったため、売上計上するタイミングは企業毎に判断がまちまちでした。一方、国際会計基準では収益認識に関して2018年1月にIFRS第15号で基準が明記されました。その後、日本でも新収益認識基準が開発され適用されました。

ちなみに、収益認識基準とは、「売上をどのタイミングでどれだけ計上するか」の基準を明確に示したものです。実際には5つの段階で売上をあげることを基準とし、新会計基準の強制適用対象となる大企業や上場会社は、この基準に基づき売上を適切なタイミング、適切な金額で計上するようしなければならなくなりました。
新会計基準適用は、財務・経理部門だけではなく、特にポイントプログラムを自社で運営している企業に大きな影響を与えることになり、マーケティング部門にも影響を及ぼすため、「知らなかった」ではすまされない重要事項と言えます。

従来の会計処理下でのポイントプログラムの扱い

どのように会計処理の方法が変わったのかを理解するために、新会計基準が適応される前のポイントプログラムにおける会計処理はどのようにされていたのか説明します。

日本では、ポイントプログラムの会計処理のガイドラインは金融庁による2008年7月「「ポイント及びプリペイドカードに関する会計処理について(改訂)」しか存在しませんでした。
このガイドラインの本文では、ポイントプログラムの会計処理の基準の有無に関して、

我が国においては、ポイントについて個別の会計処理の基準等は存在しておらず、ポイント発行企業は、企業会計原則等に則り会計処理をしている。

と記載されており、具体的な基準がないことが明記されています。

またポイントプログラムの会計処理の方法に関しては、

具体的な会計処理は、ポイント発行企業等の事業内容や、個別のポイントの性質や内容などにより異なっているが、実務上、大別すると以下のような会計処理が行われていると考えられる。
1. ポイントを発行した時点で費用処理
2. ポイントが使用された時点で費用処理するとともに、期末に未使用ポイント残高に対して過去の実績等を勘案して引当金計上
3. ポイントが使用された時点で費用処理(引当金計上しない)

と3つの処理方法を上げています。

またその会計処理の手順に関しては、

上記のうち2の会計処理が多くなっており、例えば、未使用ポイント残高に対して、過去の使用実績等を勘案して、将来使用が見込まれる部分を適切に見積もり、当該部分を貸借対照表上引当金として負債に計上するとともに、損益計算書上費用に計上する会計処理を行っている。

とあるため、多くの企業は処理方法の2を採用し会計処理を行い、ポイント残高に見合う金額=ポイント引当金を計上していました。このポイント引当金は期末のポイント残高に一定の還元率と償還率を加味し計算し計上するため、年間を通じて多くの会員に多くのポイントを発行し、期末に多くのポイント残高が残った企業ではそれに見合う引当金が必要でした。引当金は負債であるとともに、その引当金相当額を費用、多くの企業では販売管理費に計上するため財務上の費用が膨れ上がる企業も少なくありませんでした。

新会計基準におけるポイントプログラムの会計処理

これに対し海外では国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards = IFRS)によって2007年にポイントプログラムの会計の解釈指針が「IFRIC第13号(カスタマー・ロイヤリティ・プログラム)」として公表されています。この指針では

1. 消費者に付与されたポイントは収益の繰延と扱う
2. 会計処理としてはポイントが付与された時点で「繰延収益」として計上。その際各社は繰延収益確定のため公正価値の測定を行い、予想される引換率から繰延収益を割り出さなければならない(最大は100%計上)
3. 各売上から繰延収益を引いたものをこの時点での売上として計上
4. 実際にポイントが使用された時やポイントの有効期限が切れた時点で繰延収益は取り崩され、正式に売上が計上される

としています。
IFRS指針によると、ポイントを付与した場合、売上からポイント付与相当分を繰延収益として引いて売上として計上し、ポイントが使用されたときに繰延収益として売上に計上するということになります。
そして日本でも、今回の新会計基準の収益認識基準においてポイントは国際会計基準同様に繰延収益として扱われるため、同様の処理を行う必要があります。

新会計基準によるポイントプログラム戦略への影響

それではこの新会計基準適応によるポイントプログラム戦略への影響を考えてみます。

1. ポイント付与率の抑制

まず影響を受けると考えられるのはポイントの付与率です。ポイント付与率は、ポイントプログラムにおける会員の囲い込みの根幹に関わる部分です。

例えば、購入金額100円毎に1ポイント付与するプログラムではポイントの付与率は1%になります。また、ポイント会員を囲い込むためや特定商品に関しての販売促進、タイアップ企業との共同キャンペーンや期間限定の販促イベントを盛り上げるため等、様々なプロモーション時に2%や3%、時には10%という付与率でポイントを付与していた企業が多く見られました。

しかし、新会計基準ではポイントを多く付与するとポイント相当分が繰延収益となるので、会計処理上は売上を減額する必要があります。ポイントが使われると売上に入れることができるとはいえ、一時的に売上に影響が出るとなると付与率そのものを抑える、またキャンペーン的に付与率の大盤振る舞いは今後難しくなるでしょう。現に、通常時のポイントの付与率を改定した企業も現れています。

2. ポイント利用に期限を設定

発行したポイントは会計上繰延収益で、ポイントが使用された時点で売上に計上します。ということは、ポイントに有効期限がなく、かつ会員がいつまでもポイントを使用しなければ会計上は繰延収益がずっと残っている状態と考えられます。そのために企業は会員に対し、いかにポイントを貯めずに早く使用させるかを考える必要があります。

一番手っ取り早いのは、ポイントに有効期限を設定してポイントを貯めてもすぐ使わないといけない状態を作り出すことです。これであれば一定期間内にポイントが使用されるので売上に反映することができます。
そういう意味では、沢山のポイントを集めないと交換できない特典は、逆に長期間多くのポイントを保有させてしまい繰延収益が増えてしまうので、今後は見直しが必要になるでしょう。

3. ポイントの償還率の悪化

ポイント償還率にも影響を与える可能性が高いと思われます。
例えば、よくある1ポイント=1円であればポイントの償還率は100%です。これを自社商品で償還させた場合は100%で設定しても商品定価>商品原価なので、会員に満足を与えながら事実上の償還率を低く抑えることができ企業にとっては魅力的です。一方で、プリペイドカードや他社ポイントとの交換の場合は、商品定価=商品原価なので、償還率を100%にすれば企業にとってメリットがなく、実際には償還率を50%未満に設定している場合が多いと思いますが、今後はこの償還率をより下げるのではと予想します。
どちらにしても、繰延収益はできるだけ自社に還元させ売上に計上する必要があるからです。

影響を受ける代表的な3つを上げてみましたが、この影響全てをもしポイントプログラムに反映させると「ポイントが溜まりにくく、使い勝手が悪い」というポイントプログラムになってしまい、会員から見るとポイントプログラムの改悪と捉えられる可能性が高くなってしまいます。

今こそポイントプログラム戦略の見直しを

従来のポイントプログラム戦略では、マーケターは「いかに会員を増やすか」「いかに囲い込むか」「いかに離反させないか」というマーケティング上の課題を解決するのが主目的でした。
しかし、今回の新会計基準の適応で経営者サイドからは「ポイント付与の抑制」「繰延収益の早期の回収」という課題が、それも今までの課題と相反する課題の解決が求められています。
どの課題の解決を優先するか、この優先順位によっては参加している会員にとって一方的にポイントプログラムの改悪が行われ、プログラムそのものの魅力が低下したと感じる可能性も否定できません。一方で、従来の戦略を継続してしまえば、売上の低下という経営への影響が出る可能性もあります。

プログラムの魅力を低下させず会員の離反を防ぎ、売上に貢献するためにもポイントプログラム戦略を再設計や、継続そのものを検討する必要があります。現に欧米の小売流通業を中心にIFRS 第13号が発表された以降、ポイントプログラムを廃止し割引クーポンに切り替えた企業も多く見られました。
また、ポイントプログラム戦略だけではなく、中長期にわたるロイヤルティプログラム戦略全体の見直しを検討する必要も出てくることでしょう。

【参考コラム】
ロイヤルティプログラムとは?他社事例から学ぶ3つの指標と実践方法

今回の新会計基準の適応は企業規模、上場・非上場で異なります。しかしながら、会計処理の変更ですから、今回強制適応を受けなかった企業でも将来に向けて対策の検討は必須だと考えます。

フュージョン株式会社では、運用中のCRMプログラムの現状を把握し、課題を発見できる簡易チェックシートを公開しています。ポイントプログラムはもちろん、CRMプログラムの改善の第一歩にご活用ください。

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ポイントプログラム戦略のビジネス戦略への格上げを

自社運用のポイントプログラムは、マーケターから見ると会員プロモーションの一部であり、どちらかと言えばマーケティング施策という捉え方であったかと思います。しかしながら、今回の会計基準の適応で売上にも影響を与えるという意味では、経営戦略の一部であるという認識に改めなければいけません。
ポイントプログラムは、会計処理の変更という外部要因の影響で、その位置づけを大きく変える必要に迫られています。
マーケターは今回のピンチをチャンスと捉え、自社のポイントプログラムやポイントプログラムを含んだロイヤルティプログラム戦略、さらにはCRM戦略を経営戦略の一部として見直す良い機会を得ているのではないでしょうか。

フュージョン株式会社では、30年以上にわたり、CRM支援サービスとしてロイヤルカスタマー育成のためのデータ分析による現状把握から戦略策定、ポイントプログラムの設計・運用支援まで統合的なサポート通じ多くのクライアント企業を支援してきました。
運用中のCRMプログラムの見直しをしたいと考えている方や、ロイヤルティプログラムに関するお悩みのある方は、お気軽にご相談ください。

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※本コラムでは新会計基準のポイント会計処理に関する部分のみを要約して取り上げています。各企業における新会計基準における会計処理の対応方法に関しては専門家にご相談ください。