
先日、宅配事業者A社が実施した「顧客の引上げと定着」を目的としたキャンペーン事例を伺う機会がありました。
オファー内容や実施タイミングといったキャンペーン設計が非常に緻密で、新規顧客の獲得からお試し利用、さらにリピート・定着につなげる流れとしてよく考えられていると感じました。
本コラムでは、A社の事例をもとに「顧客をリピート化・ロイヤル化していくためのポイント」を整理し、マーケティング担当者が実務で学べるヒントをご紹介します。
宅配事業者A社「お試しキャンペーン」の概要と設計ストーリー
A社が実施したのは「1週間お試しキャンペーン」。
新規顧客の獲得を狙った施策で、ターゲットは 「すでに宅配サービスを利用している人」や「宅配を検討中の人」でした。
オファー内容は、平日5食を4食分の価格で提供するというシンプルなお試し設定。
告知はオンライン広告・テレビCM・新聞折込チラシなどマルチチャネルで展開され、申込は自社Webサイトまたはコールセンター経由でした。
申込後はエリア担当者が訪問し、
- キャンペーン条件の説明
- 継続注文の締切(毎週水曜まで)
- 配達希望時間の確認
を行ったうえで代金支払い・契約が完了し、翌週から配達が始まります。
ここまでは一般的なお試しキャンペーンに見えますが、A社の設計はここからが本番です。
- 配達が始まった最初の週の火曜日(継続注文締切の前日)、配達員が訪問時に追加オファーとして「2週間分の代金で3週間分を提供」を提示
- その後、さらに長期利用へと引き上げるため「2か月分の代金で3か月分提供」という次のオファーを展開
つまり、1週間のお試しから始まり、段階的な特典オファーによって継続利用を促すストーリー設計になっていました。
キャンペーン設計とターゲットのインサイト
まずは、このキャンペーンが狙ったターゲットについて考えてみましょう。
宅配食サービスは幅広い層に支持されていますが、今回のキャンペーンは「常温食を毎日配送する」という特徴から、ある程度ターゲットを絞ることができます。
- 冷凍宅食:一度にまとめて届くため、主なターゲットは忙しい一人暮らしや共働き世帯などの現役世代
- 常温宅食(今回のケース):調理不要ですぐ食べられるため、想定ターゲットは
 ✓一人暮らしのシニア
 ✓同居しているが調理が難しいシニア世代
 ✓シニアを支える現役世代の家族
こうしたターゲットが抱える代表的な課題には、以下が挙げられます。
- 味の好みと栄養バランスのミスマッチ
- 栄養知識の不足
- 受け取りの手間
- 価格負担
今回のキャンペーンは、これらの課題に的確に対応していました。
- 「もし気に入らなければやめられる」というお試しキャンペーンのメッセージ → 味や栄養面への不安を低減
- お試し価格の提示 → 金銭的ハードルを下げる
- 実際の受け取り体験 → 配送の手間を自ら体感してもらう
一見シンプルな「お試し施策」に見えますが、ターゲットの生活背景やインサイトをよく理解した設計であることがわかります。
事例から学ぶ4つのキャンペーン設計ポイント
今回のキャンペーン設計から学べる大きなポイントとして、四つ解説します。
1.心理的ハードルを下げる段階的アプローチ
一点目のポイントは、継続期間を段階的に延ばしている点です。
人は新しい商材に慣れるために時間が必要です。一方で、新しいサービスに切り替える際には「できるだけリスクを避けたい」という心理も働きます。特に継続利用が前提となる商材では、できるだけ早く定期購入に移行してもらうことが重要ですが、顧客が納得しないうちに長期契約を迫ると、契約の躊躇や早期解約につながりやすくなります。
今回のA社の宅食キャンペーンは、以下のようにステップを踏んで提案していました。
【STEP1】1週間お試し
【STEP2】3週間利用(2週間分の代金で提供)
【STEP3】3か月利用(2か月分の代金で提供)
このプロセスにより、顧客は少しずつ商材に慣れ、安心して継続を判断できるようになります。事業者にとっても契約の壁を下げ、離脱率を抑える効果が期待できます。
2.顧客接点の設計とLTV最大化
二点目のポイントは、顧客接点の設計です。
宅食という商材は必ず配達が伴い、そこで配達員との人的接点が発生します。効率を重視すれば、配達員は配送と回収に専念し、契約や説明、代金回収は別部門やプラットフォームで対応する方が合理的です。
しかし、今回のターゲットであるシニア世代にとって重視されるのは「簡単便利」よりも「安心感と信頼感」です。そのため、A社は配達員にさまざまな役割を集約し、日常的なコミュニケーションから信頼を醸成していました。これが最終的にLTV最大化につながると考えられます。
学びとしては、顧客接点を設計する際には、
- ターゲットの思考・行動特性を理解すること
- 商材と接触する場面や頻度を分析すること
- どの接点にどの役割を割り振るかを定義すること
が重要です。
また、すべての顧客が人的接点を積極的に望むわけではありません。「手間をかけずにオンラインで完結したい」というニーズも存在します。
したがってオフライン接点とオンライン接点を組み合わせ、顧客自身が最適なチャネルを選べる設計が求められます。最適な顧客コミュニケーションを設計するための方法については、以下の記事もご確認ください。
これら2つのポイント(段階的な期間設定・顧客接点の設計)は、コミュニケーション戦略を考える際にあらかじめ決めておくべき事項です。キャンペーンの骨格を左右する要因であり、戦略立案時の重要な視点となります。
フュージョンでは、すぐに使える顧客コミュニケーション設計書テンプレートを公開しています。貴社の取り組みにご活用ください。
3.習慣化を促す「マジックナンバー」の活用
三点目のポイントは、習慣化を促すマジックナンバー「3」を活用している点です。
マジックナンバーとは、習慣化を目指す上で目安となる期間として理解されています。
その期間は「3日、3週間、3ヶ月」であり、3日続ければ継続力がつき、3週間で習慣として定着し、3ヶ月続ければ結果が出始める期間と言われています。
今回のキャンペーンでは、このマジックナンバーを意識し、2回目のオファーを「3週間利用」に設定。
これは「企業側が習慣化を定着させたい」という狙いと、「顧客がリスクを避けたい」という心理の両立を図る最適解といえます。
期間設計は、戦略立案時にリソースやコストを踏まえたシミュレーションが必要です。また、どのタイミングで、どのようなメッセージを提示するかをコミュニケーション設計で組み込むことが重要です。
4.金銭的オファーの見せ方
四点目のポイントは、割引オファーの見せ方です。
金銭的オファーは、同じ内容でも表現方法によって見せ方が変わります。
「回数で見せる」:例)「5回分が4回分の金額」
「金額で見せる」:例)「5000円が4000円」
「割合で見せる」:例)「5000円から20%引き」
これらは、見せ方を組み合わせることによって、より強いインパクトを与えることもできます。
今回のケースでは、一貫して一食あたりの金額(xxx円がxxx円に)で見せていました。
宅食のような食品や日用品の場合は、購入時に常に比較しながら検討することも多く、そのため購入者にとって購入するメリットが伝わりやすい見せ方が重要になります。
今回のケースで言えば、受け手にとって「1食あたりxxx円」という表現はお得感を直接的に伝えることができます。それと同時に、他の比較対象と比較しやすくなるため、他の表現方法を選択するよりも優れていると言えます。
さらに、最近このキャンペーンはアップデートされ、最初のお試しキャンペーンの期間が1週間から2週間になっていました。
背景としては、最初のお試し期間が始まった翌日に次のキャンペーンの話をされても継続の判断が付きにくいため、最初のお試し期間を2週間にすることで、多少レスポンスが減っても、最終的なコンバージョンを重視した結果と考えられます。
定着化の実現は綿密なキャンペーン設計とテストが不可欠
今回コラムでは、宅配事業者A社の事例をもとに、新規顧客獲得から定着化までのキャンペーン設計を解説しました。
キャンペーンを設計する場合は、
- 費用や期間、ターゲット数、提供可能なオファーといった制約条件
- キャンペーン目的を1回のアプローチで達成するのか、もしくは複数回にわけたアプローチで達成するのか
これらを逆算して全体を組み立てる必要があります。
また、設計して終わりではなく、実施後の結果を振り返り、テストと改善を繰り返すことでキャンペーンの精度が高まり、最終的な成功率を上げることができます。
フュージョン株式会社では、30年以上に渡り、多様な業界・業種でCRM戦略策定から具体的なキャンペーン企画、実施・運用、分析までをワンストップで支援してきました。特に、新規獲得からロイヤル顧客化までを見据えた顧客戦略設計、コミュニケーション設計、クリエイティブ開発、シナリオ設計、マーケティング・オペレーション支援やアナリティクスまで幅広いサポートをご提供しています。
顧客獲得や定着化に課題を感じているマーケティング担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。




 
 
   
   
  










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