マーケティング手法として、Web広告やSNSなど多様な施策が存在しますが、ダイレクトメール(DM)は、顧客に直接リーチできる手段として欠かせないツールとなっています。一方で、配送コストや印刷コストなどの上昇に伴い、DMを大量に発送するだけでは採算が合わなくなりつつあるのも事実です。
DMの役割については下記コラムで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
特に、最近は郵便料金の高騰が顕著です。郵便料金の値上げによってDMを送付するコストが上昇し、従来のように大量配布型の施策では費用対効果の低下が避けられないケースが増えてきました。こうした状況下で、企業のマーケティング担当者や経営層は「少ない通数でいかに成果を出すか」を意識する必要があります。
DM制作の段階でクリエイティブを改善する方法も重要ですが、本コラムではより投資対効果に直結する「ターゲットの改善」に焦点を当て、DMの通数最適化とROI改善のポイントを紹介していきます。
DMの最適化には2つの方法がある
DM施策には、大きく分けて「クリエイティブの改善」と「ターゲットの改善」という2つのアプローチがあります。前者はデザインやコピーの改善、ブランドイメージを意識したレイアウトの見直しなど、受け手の心を動かすための訴求力を強化する手段です。
一方、後者は「誰に送るのか」「どのくらいの通数を送るのか」を見直すアプローチを指します。昨今のように郵券代や人件費が上昇している状況では、ターゲットの最適化による通数の削減がROIの改善に大きく寄与します。
それでは、具体的なターゲットの最適化を解説する前に一度DM施策におけるROIについて見ていきましょう。
DMにおけるROIの考え方
ROI(Return on Investment)は日本語で「投資利益率」と訳されることが多く、投入した投資費用に対して、どの程度の利益が生まれたのかを示す指標です。一般的には以下のような式で求められます。
ROI = 利益 ÷ 投資総額
また、マーケティング活動への投資と、その投資から得られる収益率を示すROMI(Return on Marketing Investment)という指標も存在し、こちらは以下の計算式で求められます。
ROMI = (売上 - マーケティングコスト) ÷ マーケティングコスト
いずれの指標も値が大きいほど、効率や効果が高いと評価されます。
DM施策における投資総額とは
DMのROIを算出する際には、以下のような費用を「投資総額」と捉えることが多いです。
1. 企画費
企業が期待する行動を顧客にとってもらうために、あらかじめ理想のコミュニケーションプロセスやストーリーを設計(顧客コミュニケーション設計)する際にかかる費用。内製する場合は後段の人的コストに内包される。
2. デザイン制作費
外注する際にかかる費用
3. 印刷費
部数や形状、印刷方法・印刷物の数などによって変動
4.リスト購入費
基本的に自社で取得している顧客リストを利用するが、自社リストがない場合に必要となる
5.人的コスト
内製するにしても外注するにしても、発送するまで多くの関係会社とのやり取りが発生するため、社内の人的コストも加味する必要がある
6.発送費
重量や発送部数によって変動
DM施策における利益とは
DMを活用する目的は企業によって多種多様です。新商品の販売促進を狙うケースやイベントへの来場促進を狙うケース、あるいは通販の定期購入を増やしたいケースなど、目的が変われば「利益」の定義も多少異なります。
一般的には、DM経由での売上高から原価を差し引いた粗利益や、その施策による純増利益を指すことが多いです。いずれにしても、自社がどの指標を「利益」と捉えるのかを最初に明確化することが重要です。
DM通数最適化の考え方とメリット
DM通数最適化とは
DM通数の最適化とは、単に「送る通数を減らす」ということだけを意味しません。むしろ「費用対効果を最大化するために、適切なターゲットセグメントに、最適な通数を送る」ことを指します。
顧客によって反応率が高い層、潜在的な購買意欲が高い層などをデータ分析によって抽出し、その層に対して重点的にDMを送ることで、コストを抑えつつも高い成果を得ようとするアプローチです。
たとえば、過去のキャンペーン施策でDMを送付した際の反応率やCV(コンバージョン)率などのデータをもとに、確度の高い顧客を抽出し、その層に的を絞った施策を実施すれば、むやみに大規模な通数を投下する必要がありません。これによって、
- 郵送コストの削減
- 高い反応率の維持
- ROIの継続的な改善
が期待できます。
DM通数最適化によるメリット
1.コスト削減
通数を最適化することで、郵券代をはじめとする発送コストの総額を抑えられます。以前は大量発送が当たり前でしたが、無駄な通数を削減できるなら、それだけ投資総額を低減し、ROI向上につなげられます。
2.反応率(CV率)の向上
送付対象を絞り込むことで、“アクションにつながりにくい層”へ送るDMを減らすことができ、本当に関心があり購入につながりやすい層だけに集中して訴求できます。その結果、反応率やCV率が向上しやすくなり、ROIも高めることができます。大量にばらまく施策を行うよりも、見込み度合いの高いターゲットに密度の濃いアプローチをする方が、受け手との関係構築を深めるタッチポイントを作ることができ、LTVの向上も期待できます。
これは単なる反応率やCV率の向上だけでなく、「今この顧客に、どのような情報を、どのようなタイミングで届けるべきか」といった、CRM戦略に基づく顧客コミュニケーション設計の最適化をも行っていることを意味します。
3.ROIの向上
投資額が適正化され、かつ売上や利益をより確実に得やすくなるため、ROIが向上しやすいのはもちろんのこと、DM施策全体を費用対効果という視点でマネジメントしやすくなり、経営層や他部署への報告もしやすくなります。
DM施策で成果を出すためのセグメンテーション手法
DMの通数最適化を実現するうえで最も大切なのが、ターゲットセグメントの精緻化です。セグメンテーションとは、顧客全体をいくつかのグループに分け、それぞれの特徴に応じた戦略を打ち立てる手法です。ここでは代表的な分析手法を挙げながら、どのようにDM施策に生かせるかを解説します。
RFM分析
RFM分析は、顧客を以下の3つの指標で評価し、セグメント化するための定番手法です。
RFM分析では、たとえばR・F・Mそれぞれにスコアを割り当て、トータルのスコアで顧客をグルーピングします。上位のセグメントをロイヤルカスタマーとして扱い、DMを重点的に送付したり、クーポンや特典を手厚く用意したりします。
また、離反してしまった優良顧客にはカムバック施策を実施したり、新規顧客には回数UPの施策を実施したりとセグメントごとにアプローチを変えると効果的です。
機械学習モデルによるスコアリング
機械学習モデルによるスコアリングでは、過去のDM施策から得られた反応データや購入履歴、Web行動履歴など、さまざまなデータを機械学習モデルに投入し、「将来的に購買(またはアクション)を起こす可能性が高い顧客層」を洗い出します。
例として以下のようなものが投入されるデータとなります。
- 過去のメールやDMに対する反応率
- サイト訪問回数、ページ滞在時間
- 購入単価、購入頻度
- 属性情報(年齢・居住地域・職業など)
これらを総合的に扱うことで、RFM分析よりもさらに細かいセグメンテーションが可能になります。機械学習を使うことで、RFM分析だけでは拾いきれない潜在的な優良層や、今後離脱してしまうリスクが高い層などを事前に見つけられるのが大きな利点です。
また、学習データが増えるほどモデルが進化し、PDCAサイクルを回すごとに精度が向上するため、継続的な取り組みの前に導入できるとより効果的です。
ただし、機械学習モデルの導入には様々なハードルがあります。
- 専門的な知識やツールが必要で、社内リソースだけでは運用が難しい場合がある
- データの前処理(クリーニング、整形)やシステム連携に手間がかかる
- 分析結果をマーケティング施策に落とし込むためのノウハウ(実装力)が求められる
これらはほんの一例ですが、基本的には社内のリソースだけで導入するのは難しいと言えるでしょう。
属性・行動データを掛け合わせた細分化
さらに細かいセグメンテーションとして、属性データ(年代、居住地、家族構成など)と行動データ(購買・閲覧履歴、Webのアクセス頻度など)を掛け合わせる方法も有効です。ターゲットが企業の商品をどのように認識し、どのタイミングで購入しているかを可視化することで、より適切なメッセージを届けやすくなります。
例:ライフステージ×購買頻度
- 独身の20~30代男性で、月に1度はECサイトで購入を行う層
- ファミリー層で、定期的にベビー用品を購入する層
こうした「属性×行動」ベースのセグメンテーションを行えば、DMの内容やタイミングを最適化しやすくなります。誰に、いつ、どんな内容で送るかを具体的に設計できるため、通数を最小限に抑えつつ、高い反応率を狙うことが可能です。
セグメンテーションによる通数最適化の実践ステップ
ここからは、セグメンテーション結果を活用して通数最適化を実践するまでの流れを、ポイントを絞って解説します。DM自体の制作工程や効果測定については簡潔にとどめ、「いかにして必要最小限の通数を割り出すか」という視点を中心にまとめます。
目標(KGI・KPI)の設定とセグメントの優先度決定
まずは、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を設定します。売上・利益・新規顧客獲得数など、企業が重視するゴールに合った指標を定め、そこから逆算してどのセグメントを最重要視すべきかを決めましょう。
KGI例:DM施策で月間売上○○円を達成する、新規顧客獲得数を○○名にする
KPI例:DM発送後の反応率、CV率、平均購入単価など
KGIとKPIが定められたら、RFM分析や機械学習モデルから得られたスコアをもとに、スコアが高いセグメントには多めにDMを送る、あるいは特別なオファーを加えるなどの優先度を決めます。
一方で、スコアが低いセグメントにはDM発送を控えるか、テスト的に少量だけ送付するなど、通数を抑える工夫を施します。
最適な通数をシミュレーションする
「どのセグメントに何通送ればいいか」を考える際には、過去データを活用したシミュレーションが非常に重要です。
フュージョン株式会社では、過去施策の反応率や売上額、ROIなどのデータを参考に、反応率がいくつの時に利益が最も高まるか、また通数はどの程度必要か、をシミュレーションしています。
もちろんシミュレーションはあくまで試算ですが、データに基づいて最適なバランスを探ることで、過度な大量送付を避ける一方、必要以上に通数を絞りすぎて売上機会を逃すリスクも軽減できるのです。
DM内容の微調整
セグメンテーション結果に沿って、実際に送付リストとDMの内容を作成します。大量に送る場合と違い、重点セグメントには一工夫したコピーやデザインを準備するなど、少量配布でも効果を高める工夫を凝らしやすいのが利点です。
また、いきなり本番通数をすべて送るのではなく、A/Bテストを実施し、クリエイティブのブラッシュアップを図るのも有効です。
効果検証と次回施策へのフィードバック
DMを送付した後は、効果検証を行うことが非常に重要です。二次元コードを記載してサイトへ訪問し、購買に至ったかどうか、ハガキや申込書といったレスポンスツールを同封している場合、その返信率や使用率はどうなっているか、といった方法でCVのカウントや反応率の検証を行います。
集めたデータをもとに設定したKGIやKPIが達成されているかの確認と、ROIの算出を行い、以下のような判断を下します。
- 「セグメントAは予想以上に反応率が高かった。次回は通数を増やしても十分ROIが高そうだ」
- 「セグメントBは想定以下だったため、次回は通数を思い切って減らしてもよいかもしれない」
こうしたフィードバックを次回施策へ活かすことで通数最適化の精度が徐々に高まっていきます。継続的なPDCAサイクルの実践こそが、DM施策の改善には欠かせません。
自社だけで難しい場合の外部委託という選択肢
セグメンテーションや通数最適化によるROI改善は、理論上は魅力的ですが、実務的なハードルも少なくありません。たとえば次のようなケースです。
1. データ分析のリソース不足
RFM分析や機械学習モデルを活用したいが、社内にデータサイエンスの専門家や統計解析に明るい人材がおらず、ツールの導入や運用が難しい。
2. DM制作・テストの手間
クリエイティブの複数パターンを同時に作り込み、テスト送付を行うには、デザイナーやライターなどの制作リソースが必要。加えて、分析結果を踏まえて微調整を繰り返すには、マーケティング担当者の工数もかかる。
3.継続的なPDCAサイクルが回せない
DM施策を定期的にブラッシュアップする仕組みがなく、単発の大量送付で終わってしまう。結果、ROI向上のチャンスを逃している。
こうした課題を抱えている場合、外部の専門企業に委託し、セグメンテーションと通数最適化を中心としたDM施策全般をサポートしてもらうのも有力な選択肢です。
セグメンテーションで通数最適化を実現し、ROIを高める
BtoC向けのDM施策では、郵便料金や印刷費がかさむなどの理由から従来の大量送付型施策ではコストパフォーマンスが悪化しがちです。今後DMを活用していくうえでは、「適切なセグメンテーション」によって通数を最適化し、効率的かつ効果的に顧客へアプローチすることが不可欠となります。
フュージョン株式会社では、DM施策実施前のセグメンテーションを含めた分析からDMの企画・制作、実施後の効果検証までをワンストップで支援しています。初めてDMの実施を検討している場合や、現在のDM施策の効果に課題をお持ちの場合は、ぜひ一度フュージョン株式会社へお問い合わせください。