
マーケティング施策の高度化に伴い、マーケティングオペレーション(以下、MOps)の重要性が高まっています。
MOpsとは、データ、テクノロジー、プロセスを統合管理し、マーケティング活動の効率化と成果の最大化を図る機能です。MAツールやデータプラットフォームの運用にとどまらず、施策を継続的に改善し、顧客理解や顧客体験の向上につなげる役割も担います。
MOpsへの移行アプローチについては、以前のコラムで解説しました。
一方で、MOpsへの移行では、組織体制や利用ツールの変更が先行し、現行業務を新しいプロセスやプラットフォームへそのまま載せ替えてしまうケースがあります。
既存業務を十分に見直さないまま移行すると、非効率な業務まで引き継がれ、業務効率化やリソース最適化の効果が限定的になりかねません。
そこで重要になるのが、移行前に業務の必要性・重複・目的を見直す「業務の棚卸し」です。
本コラムでは、MOpsを単なる業務の置き換えで終わらせず、より成果につながる組織へ再設計するための「業務の棚卸し」について解説します。
| 【目次】 ・なぜ「置き換え」だけでは根本的な問題が解決しないのか ・業務の棚卸しがもたらす4つの効果 ・実践的な棚卸の進め方 ― 5つのステップ ・MOps改善は「業務の再設計」である |
なぜ「置き換え」だけでは根本的な問題が解決しないのか
形骸化した業務がそのまま残る
多くの企業のマーケティングオペレーションは、施策担当者の異動や組織変更、時代とともに変化するマーケティング活動、恒常的な施策に加えて突発的に始まるキャンペーンへの対応など、さまざまな経緯が積み重なる中で少しずつ形を変えてきました。
その結果、「なぜ実行しているのか、なぜこのアウトプットが必要なのかを誰も説明できないが、止める理由もないので慣習として続いている」業務が、少なからず存在します。
例えば、次のような業務です。
・誰が見ているかわからないレポートを毎週作成している
・複数の担当者が同じデータを別々に加工し出力している
・本来自動化できる作業を人手で行っている
・「念のため」という理由で過剰なチェックをしている
業務の中には、今となっては不要であっても、誰も疑問を投げかけないまま日々実行され続けている作業があります。
このような状態のまま、すべての業務を新しいプラットフォームや業務プロセスへ移行すると、何が起きるでしょうか。
答えはシンプルです。本来は不要な業務まで「移行すべきプロセス」と認識され、そのままデジタル化・ルーチン化されてしまいます。その結果、「処理時間や手間は減ったが、期待したほどコスト削減につながらない」という状態に陥りかねません。
過去の最適解を現在に持ち込んでしまう
既存の業務は、当時の組織構造や人員体制、担当者のスキル、利用できるプラットフォームの種類や機能といった制約条件の中で最適化されてきたものです。しかし、事業環境やチーム体制、利用可能なプラットフォームは常に変化しています。
前提条件や制約条件がすでに変わっている、あるいは変えられるにもかかわらず、現行プロセスだけを新しいプラットフォームへ移し替えても、それは過去の最適解を現在に持ち込んでいるにすぎません。
本当に必要なのは、「今の環境を前提に、何が最適なのか」をゼロベースで問い直すことです。
部門横断の業務が見落とされやすい
属人化を解消するための可視化やプロセス化にも、見落としが生じることがあります。例えば、不定期に担当者へ直接依頼して実行している業務や、複数部門から似た帳票作成を依頼しているケースです。
特定部門だけ、あるいは定期業務だけを可視化しても、こうした業務は見つかりにくいものです。すべてのマーケティングオペレーション担当者へのヒアリングや、部門横断で業務フローを俯瞰することで、初めて見えてくる業務があります。
こうした業務を発見・可視化し、その必要性を判断するのが「業務の棚卸し」です。
つまり業務の棚卸しの目的は、気づかないうちに肥大化したマーケティングオペレーションをスリム化し、現在の事業環境や顧客接点に合わせてアップデートすることだと言えます。
業務の棚卸しがもたらす4つの効果
では、業務の棚卸しによってどのような効果が得られるのでしょうか。大きく4つあります。
効果1:すべての業務が可視化される
誰が、いつ、どのような作業を、何の目的で行っているのか。5W1Hの観点で洗い出すことで、これまで個人の暗黙知となり、属人化していた業務が可視化されます。その結果、今後も継続すべきプロセスかどうかを検討できるようになります。
効果2:業務の目的そのものを再確認できる
可視化した業務やアウトプット一つひとつに対し、「このレポートは本当に誰かに使われているのか」「この承認フローは現在の組織体制に合っているのか」と問い直します。これにより、すでに形骸化した業務や不要なアウトプットを発見し、MOpsで継続すべきかどうかを判断できます。
効果3:業務の重複や矛盾を発見できる
同じ部門内の作業であれば、可視化と改善は比較的進めやすいでしょう。一方、営業部門とマーケティング部門など、複数部門で似た作業が行われている場合は、部門横断で洗い出さなければ見つけにくくなります。例えば、複数部門が同じ顧客データを別々に入力している、目的は異なるものの似たアウトプットを作成している、といったケースです。部門横断で棚卸しすることで、関連部門全体から重複や無駄を減らし、より効果的な改善につなげられます。
効果4:業務の優先順位を確認できる
すべての業務が同じ重要度を持っているわけではありません。部門やマネジメントに対して本当に価値を生んでいる業務と、そうでない業務を切り分けることも重要です。MOpsのリソースは無尽蔵ではありません。棚卸しによって、限られたリソースをどこに集中させるべきかを判断する材料が得られます。また、削減できたコストや工数を、顧客理解や施策改善など、より付加価値の高い活動へ再投資できれば、「攻めのMOps」に近づくことができます。
このように、業務の棚卸しには複数の効果が期待できます。

KPIを重視しすぎると必要な業務まで削減するリスクがある
一方、効果を計測するにはKPIが必要です。MOps移行プロジェクトでは、例えば「処理時間を20%削減する」「処理費用を30%削減する」といった数値目標を設定し、その目標を各移行プロセスへ落とし込むことがあります。棚卸しの段階でもKPIを設定する場合がありますが、数値だけを過度に意識すると、本来必要な作業やプロセスまで削減してしまう可能性があります。棚卸しの時点ではKPIに縛られすぎず、まず「その業務が本当に必要か」を見極めることが重要です。
フュージョン株式会社では、現状業務の可視化から課題整理、To-Beプロセスの設計まで、マーケティング業務設計をご支援しています。
「どこから棚卸しすればよいかわからない」「業務とツールの関係を整理したい」という方は、まずサービス資料をご覧ください。
実践的な棚卸の進め方 ― 5つのステップ
実際の業務の棚卸しは、以下のようなステップで推進することをお勧めします。
ステップ1:業務ワークフローの作成
現状の業務について、マーケティング部門だけでなく、関連部門を含めたすべての工程をワークフローとして可視化します。重要なのは、「誰が」「どのタイミングで」「何を行っているのか」を作業レベルまで具体化することです。この粒度まで落とし込まなければ、作業を網羅的に可視化したとは言えません。
ステップ2:各作業への問いかけ
洗い出した一つひとつの作業に対して、「この作業は本当に必要か」「誰のための作業か」「作業の頻度は適切か」「代替手段はないか」「重複している作業は他部門にはないか」などを検証していきます。この段階では、既存のやり方を疑う姿勢が重要です。
ステップ3:データフローの追跡
ワークフローの可視化は処理プロセスを明らかにする作業ですが、実際に処理されるのは情報やデータです。そのため、必要な情報やデータがどこで発生し、どこを経由して編集され、どこで重複や停滞が起きているのかまで追跡する必要があります。データの流れを追うことで、プラットフォーム間の連携不備や二重入力、データフローの断絶といった問題が明らかになることも少なくありません。
ステップ4:現場担当者へのヒアリング
実際に作業を行っている担当者から、日々の運用で感じている非効率や作業上の不満を直接聞き取ります。マネジメント層からは見えにくい現場の実態が、ここで初めて浮かび上がることがあります。ヒアリングを通じて、「プロセス化できるか」「自動化できるか」「削減できるか」を具体的に検討でき、新しいプロセス設計の説得力を高めることができます。
ステップ5:To-Beプロセスの設計とプラットフォーム選定
棚卸しの結果をもとに、無駄を取り除いた理想的な業務プロセス(To-Beプロセス)を設計します。そのうえで、To-Beプロセスを実現するために必要なプラットフォームを選定します。この順序が重要です。従来の業務や作業をすべて満たすことを前提にプラットフォームを先に選び、そこへ全業務を移行しようとすると、無駄を含んだ業務までそのまま移行することになります。その結果、現在の問題を先送りするだけでなく、棚卸しをすれば本来不要だった機能まで導入し、余計なコストにつながる可能性もあります。
MOps改善は「業務の再設計」である
プラットフォーム導入は目的ではなく手段である
MOps改善というと、MAツールやCRMシステム、データプラットフォームといった新しいプラットフォーム選定から話を始めがちです。しかし、プラットフォーム導入はあくまで手段であり、目的ではありません。
MOps改善の短期的な効果としては、属人化の解消、業務効率の向上、オペレーションコストの削減などが挙げられます。さらにその先には、マーケティング施策の改善による売上拡大や、顧客接点をまたいだシームレスな顧客体験の向上など、企業価値につながる成果を見据えることが重要です。
廃止・簡素化・標準化・自動化の順で見直す
MOps改善は、そのための第一歩です。現状の業務や作業を、①廃止できないか → ②簡素化できないか → ③標準化できないか → ④自動化できないか → ⑤それでも必要なら効率化できないか、の順で棚卸しします。
そのうえで、無駄を省いた新しい業務プロセスを設計し、必要なプラットフォーム上で再構築します。また、事業環境や制約条件が変われば、業務プロセスも見直し続ける必要があります。
改善の最初の段階で行う棚卸しは、地味で手間のかかる作業です。しかし、コストや時間を惜しんで省略してしまうと、非効率や無駄を残したまま処理速度だけを上げる「改善」に終わりかねません。
逆に言えば、棚卸しに十分な時間をかけることが、MOps改善プロジェクトの成否を分ける重要なポイントです。これからMOps改善に取り組む方は、プラットフォーム選定に着手する前に、自社の業務プロセスを棚卸しすることから始めてみてください。遠回りに見えても、それが最も確実な近道です。
第三者の視点を入れることで、棚卸しは進めやすくなる
一方、日々の実務を進めながら、自社だけで既存業務を棚卸しし、さらに担当者自身が業務の削減を提案するとなると、関連部門からの抵抗が生じることもあります。そのため、第三者の視点で棚卸しを支援し、状況に応じて適切な助言を行えるパートナーの活用も選択肢になります。
フュージョン株式会社は、30年以上にわたり、CRM(顧客関係マネジメント)領域を中心に、クライアント企業のマーケティングをご支援してきました。
今回取り上げたMOpsについても、戦略設計、業務設計、運用設計、支援体制の構築、実際の運用、施策後の分析・改善まで幅広くご支援しています。単なるツール導入ではなく、顧客理解や顧客体験、LTV向上につながるマーケティング活動を継続的に実行できる業務基盤づくりを重視しています。
「属人化しているオペレーションを改善したい」「事業拡大に合わせてスピード感を持って組織を拡大したいが、人材が不足している」「MOpsを立ち上げたいが、何から始めればよいかわからない」といった、マーケティングオペレーションの組織・業務・改善に関するお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。






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