「NPS®を導入したが、スコアに一喜一憂するだけで、次の一手が見えてこない」
「顧客満足度調査のレポートは存在するが、会議では“それで、具体的に何をすべきか?”という問いに誰も答えられない」
企業のマーケティングやCRMの現場では、こうした状況がしばしば見受けられます。顧客との関係性こそが事業の生命線である今、その絆の強さを示す「顧客ロイヤルティ」と向き合うことは、不可欠な経営テーマです。
しかし、指標が持つ本当の意味を理解しないままでは、その活動も形骸化してしまいかねません。
本記事では、主要なロイヤルティ指標であるNPS®(ネットプロモータースコア)、顧客満足度、そしてNRS(ネットリピータースコア)を改めて問い直します。
貴社のLTV(顧客生涯価値)向上に本当に繋がる指標の選び方と、その先にある“本質的な活用法”までをお伝えします。
※顧客ロイヤルティの基本的な概念や全体像については、「顧客ロイヤルティとは?3つの観点や測定指標、向上方法を解説」をご覧ください。
本記事では、特に「測定指標」に焦点を当てて解説します。
顧客ロイヤルティとは?
顧客ロイヤルティを構成する3つの側面
まずは顧客ロイヤルティの構造について基本的な理解を共有します。顧客ロイヤルティとは、一般に「顧客が企業やブランド、商品・サービスに対して抱く『信頼』や『愛着』」を指しますが、その構造は以下の3つの側面で成り立っています。
- 心理ロイヤルティ
ブランドへの「信頼」や「愛着」「共感」といった、顧客の心の中にあるポジティブな感情です。「このブランドの世界観が好きだ」「この会社の理念に共感する」といったポジティブな気持ちがこれにあたります。 - 行動ロイヤルティ
顧客が自発的に起こす、企業との関係性を維持・深化させるための具体的なアクションです。商品の購入やサービスの継続利用はもちろん、「ウェブサイトへの定期的な訪問」や「イベントへの参加」といった、直接的な購買以外の行動もここに含まれます。 - 経済ロイヤルティ
上記2つのロイヤルティの結果として企業にもたらされる、財務的な貢献です。「売上」や「契約継続期間」といった、明確に数字で計測できる指標がこれに該当します。
これら三つの観点はそれぞれが独立して存在するものではなく、互いに影響を与え合い、総合的な顧客ロイヤルティを形成します。
なぜ?多くの企業が陥る「経済ロイヤルティ」偏重の罠
ここで、多くの企業が陥りがちなのが、計測しやすい「経済ロイヤルティ(売上)」や「行動ロイヤルティ(購入回数)」ばかりを追いかけてしまうことです。
しかし、問うべきは「その関係は、永続的か?」ということです。値引きやポイントといった短期的なインセンティブだけで繋ぎ止めた関係は、その施策が尽きた瞬間に終わりを迎える可能性があります。なぜなら、その関係の根底には、顧客の自発的な好意、すなわち「心理ロイヤルティ」という土台が欠けているからです。
フュージョンでは、これを短期的な「購買者づくり」に偏り、長期的な「ファンづくり」の視点が欠けている状態だと捉えています。
「なぜ、お客さまは私たちを選び続けてくれるのか?」という問いの答えは、顧客の心の中にしかありません。持続的な事業成長を実現するには、この目に見えない「心理ロイヤルティ」をいかに可視化し、向上させていくか、という視点が不可欠になります。
そこで本記事では、この最も重要でありながら測定が難しい「心理ロイヤルティ」を、どのように測定し、事業成長に繋げていくかに焦点を当てて解説します。
顧客ロイヤルティの測定指標
顧客の「心理」を可視化する道具が、測定指標です。ここでは代表的な3つの指標を比較し、それぞれの役割と特性を客観的に解説します。
代表的な3つの指標:NPS®・顧客満足度・NRS【比較表】
顧客ロイヤルティを可視化する代表的な方法として、NPS® 調査、顧客満足度調査、NRS調査があります。それぞれ顧客の満足度を測る指標ですが、調査で得られる数値は異なります。
下記表で代表的な3つの調査について、それぞれの特徴と調査方法をまとめています。
項目 | NPS®(ネット・プロモーター・スコア) | 顧客満足度 (CSAT) | NRS (ネット・リピーター・スコア) |
定義 | 対象の商品やサービスを他者に勧めたいと思う割合を数値化するための指標 | 満足度を測る顧客の現在の満足度を数値化するための指標 | 顧客自身の未来の継続利用意向を数値化する指標 |
質問例 | 「この商品を友人に薦める可能性は?」 | 「今回の〇〇への満足度は?」 | 「今後1年間、このサービスを利用し続けたいか?」 |
メリット | ・専門知識がなくても運用しやすい ・全社の共通指標として活用できる ・同業他社と比較しやすい |
・設問数に応じて詳細に回答を収集できる ・サービスに対する悪い意見も聞ける |
・調査結果の信ぴょう性が高く、NPS®に比べてスコアが高く出る ・NPS®に比べてスコアが高めに出るため関係者の士気を向上させやすい ・既存顧客の収益シミュレーションの信憑性が増す |
デメリット | ・日本ではスコアが低く出やすい(中間を選ぶ傾向) ・設問が限定的なので得られる情報が少ない ・一定以上の回答数が必要 |
・データ収集や分析に時間と手間がかかる | ・設問設計に深い知見が必要 |
3つの指標の具体例
【例えば、あるBtoBのSaaS企業の場合…】
- NPS®で得られる声: 「このツールを同僚に薦めますか?→ 6点。機能は十分だが、UIが少し分かりにくいので、安易には薦められない」
- 顧客満足度で得られる声: 「本日のサポート担当者の対応への満足度は?→ 5点(非常に満足)。今日の問題はすぐに解決してくれた」
- NRSで得られる声: 「来年も契約を継続しますか?→ 5点(間違いなく継続する)。UIには不満もあるが、自社の業務にこの機能は不可欠だ」
このように、各指標はそれぞれ異なる側面を捉えます。NPS®は「改善要望」、顧客満足度は「短期的な感謝」、そしてNRSは「継続利用への意思」を示唆しており、これらを組み合わせることで顧客の姿を多角的に理解できます。
顧客ロイヤルティを測るメリット
顧客ロイヤルティを測定する最大のメリットは、その結果に応じて、最適な顧客コミュニケーションを設計し、個別施策を改善できる点にあります。
画一的なアプローチから脱却し、顧客一人ひとりの温度感に合わせた関係構築が可能になるのです。
そして、私たちフュージョンは、このアプローチがCRMの最終目的であるLTVの最大化に繋がるからこそ、極めて重要だと考えています。その鍵を握るのが、特にNRSが示す「継続利用意向」です。
以下では、顧客ロイヤルティを測る二つのメリットについて具体的に解説します。
メリット1:顧客理解に基づく、個別施策の改善
ロイヤルティ測定の真価は、スコアの背景にある「理由」を分析することで、顧客セグメント毎に最適化されたコミュニケーション設計が可能になる点にあります。
例えば、ロイヤルティが高い顧客層が「手厚いサポート体制」を評価していると分かれば、彼らにはその価値を再認識させるような情報提供や、さらに上位のサポートプランを案内する、といった施策が考えられます。
逆に、ロイヤルティが低い顧客層が「製品の特定機能の使いにくさ」に不満を抱えていると判明すれば、その機能の改善に取り組むと同時に、彼らには使い方をフォローアップするような丁寧なコミュニケーションが有効になります。
このように、顧客理解に基づいた個別施策の改善を繰り返すことで、顧客との関係性はより強固なものになっていきます。
メリット2:LTVの最大化
顧客ロイヤルティ、特にNRSで計測される「継続利用意向」は、LTVを測る上で、極めて納得性の高い指標です。
継続意向の高い顧客セグメントを特定し、その顧客単価や平均的な利用期間を分析することで、「将来にわたって、どれくらいの収益が見込めるか」というLTVに基づいた事業予測の精度が格段に向上します。 これにより、マーケティング活動をコストではなく、未来への投資として経営層に説明することが可能になります。
顧客ロイヤルティは定点観測が大切
一度きりの測定で捉えられるのは、顧客の“今”という、いわば一瞬に過ぎません。その本質的な価値は、継続的な観測を通じて顧客の変化を捉え、その「理由」へと踏み込むプロセスを通して、初めて発揮されるのです。
顧客と市場は、常に変化し続ける
まず、前提として、顧客の価値観も競合の動向も、常に変化しています。昨日の成功要因が、明日も通用するとは限りません。
定点観測とは、この変化から目を逸らさず、常に「今の顧客は、何を評価し、何に不満を感じているのか」という“生の答え”を捉え続けるための、基本姿勢に他なりません。
施策の有効性を客観的に検証する
定点観測は、実行した施策が本当に顧客の心に響いたのかを検証する、客観的な「答え合わせ」の機会を提供します。
例えば、ある機能改善のリリース後にロイヤルティスコアが向上すれば、施策が正しかったと判断できます。これにより、勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいたPDCAサイクルを着実に回すことが可能になります。
変化の“理由”を科学し、次の一手を導き出す
しかし、単にスコアの変化を追うだけでは不十分です。ロイヤルティマネジメントの真髄は、その変化の「なぜ」を科学することにあります。
私たちは、顧客の最終的な心理ロイヤルティ(総合スコア)が、その手前に存在する無数の「顧客体験(ロイヤルティドライバー)」によって形成される、と考えています。
例えば、「アプリの使いやすさ」「ウェブサイトのデザイン」「問い合わせ対応の速さ」「製品の品質」といった、具体的な体験です。
私たちのアプローチでは、これらのドライバー、一つひとつに対する満足度を計測するだけではありません。統計解析を用いて、「どのドライバーが、最終的な心理ロイヤルティに対し、最も強く影響を与えているのか(=私たちはこれを“ドライバー琴線感度”と呼びます)」を算出します。
これにより、これまで見えていなかった事実が明らかになることがあります。例えば、企業側が「価格の安さ」が最も重要だと信じていても、分析の結果、実は「導入時の手厚いオンボーディング体験」こそが、顧客ロイヤルティを決定づける最大の要因であった、と判明するケースは少なくありません。
この「なぜ」の構造を解き明かすことで初めて、企業は限られたリソースをどこに投下すべきか、という重要な経営判断を、データに基づいて下すことができるのです。
成果につながるロイヤルティマネジメントへの第一歩
本記事では、主要なロイヤルティ指標を比較し、LTV向上にはNRSが有効であること、そしてその指標を定点観測することの重要性を解説しました。
顧客の心を理解するための道具は、今や多くの企業が手にしています。しかし、スコアという「結果」を眺めるだけで、その奥に広がる顧客の“感情”や“体験”という、最も重要な世界に踏み込めていないケースも見受けられます。
指標の比較、LTVへの貢献、定点観測。これらは全て、顧客を深く理解するための“入口”です。
スコアの先に広がる顧客の「なぜ」と向き合うことが重要です。私たちが、どのようにしてその「なぜ」を科学的に解き明かし、LTV向上という結果に繋げるのか。その具体的な手法や事例を凝縮したサービス資料をご用意しました。
貴社のロイヤルティマネジメントを、さらに一歩先へ進めるための参考として、ぜひお役立てください。
本資料では、NPS®やNRSといった指標を単なるスコアで終わらせず、「どの顧客体験(ドライバー)がロイヤルティに影響しているのか」を突き止め、具体的な改善アクションに繋げるためのフレームワークと事例を詳しく解説しています。貴社のロイヤルティマネジメントを、さらに一歩先へ進めるための参考として、ぜひお役立てください。