昨今、小売業界では「AI活用」による業務効率化や需要予測が大きな注目を集めています。しかし、現場からは「ツールを導入したが成果が見えない」「データはあるが活用できていない」といった切実な声も聞かれます。
AI活用が叫ばれる今こそ、立ち返るべきなのが「CRM(顧客関係マネジメント)」による深い顧客理解です。AIは、導入するだけで自動的に成果をもたらすものではありません。AIが最大限のパフォーマンスを発揮し、「CX(顧客体験))を向上させるためには、その判断材料となる「顧客データ」が正しく統合・管理されていることが大前提となります。
本コラムでは、小売業界が抱えるデータの課題を整理し、これから到来するAI時代を見据えて企業が整えておくべき準備状態=「AIレディ(AI Ready)」とは何か、そしてそこに至るための体制構築について解説します。
本コラムの内容は2025年10月28日に行われたフュージョン株式会社と株式会社インティメート・マージャーの共催セミナーでも解説しています。ご興味のある方はご覧ください。
| 【目次】 小売業界のマーケティング課題とCRMの役割 CRMを起点としたAI活用の可能性 AIの時代に備えるためのデータ活用ステップ設計 これから到来するAI時代に向けた準備のご相談はフュージョン株式会社へ |
小売業界のマーケティング課題とCRMの役割
顧客接点の分散と「データのサイロ化」
実店舗に加え、ECサイト、公式アプリ、LINE、SNSなど、小売業における顧客接点は急速に増え続けています。
チャネルが増えること自体は喜ばしいですが、ここで多くの企業が直面するのが「データのサイロ化」という課題です。
「店舗のPOSデータ」「ECサイトの購入履歴」「アプリの行動ログ」が、それぞれ別のシステムで管理され、お互いに連携されていない状態になっていないでしょうか。
データが分断されていると、現場では次のような本来避けられるはずのすれ違いが起こりがちです。
- 接客の不整合: 実店舗でアプリ会員証を提示された際、店員がその顧客を「初来店」と判断して基本的な説明をしてしまったが、実はECサイトでは年間数十万円を購入しているロイヤル顧客だったため、気まずい空気になってしまった。
- 会議での数字の不一致: マーケティング会議において、店舗統括部が出す「会員売上」と、EC事業部が出す「会員売上」の定義やデータソースが異なり、数字が合わずに会議の大半が「数字の突合」に費やされてしまう。
- 機会損失: アプリで特定の商品を何度も閲覧している「購入意欲の高い顧客」が来店していても、店舗スタッフはその事実に気づけず、最後の一押しができないまま退店されてしまう。
これらは単なるシステムの問題ではなく、顧客体験を損ない、現場スタッフのモチベーションさえも低下させる要因となります。せっかく蓄積したデータも、統合されていなければ顧客を深く理解するための資産にはなり得ないのです。
人材不足と運用体制の限界
また、現場の「リソース不足」も切実な問題です。日々の店舗運営や販促業務に追われる中、Excelで複数のデータを突合したり、手作業で分析を行ったりする時間はなかなか捻出できないのが実情でしょう。
しかし、顧客は企業の事情とは無関係に、チャネルを横断して自由に買い物を楽しみます。企業側がその動きを捉えられなければ、適切なタイミングでの提案ができず、みすみす機会損失を招いてしまいます。
CRMは「顧客との関係性維持・強化」のための戦略であり基盤である
ここで重要になるのが、CRMの本来の役割への立ち返りです。
ここではCRMを「戦略」と「システムツール」という観点で解説します。
- 戦略としての CRM
CRMとは単なるツール導入のことではありません。フュージョンでは、CRMを「顧客との関係性の維持や顧客満足の向上を図り、売上拡大や利益向上を目指すための経営戦略」と定義しています。
一度でも自社と接点を持った顧客を深く理解し、適切なコミュニケーションを通じて良好な関係を築くことで、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指す。これこそが CRM の本質です。
- 実現手段としての「CRM ツール(システム)」
この戦略を実行に移すために不可欠なのが、CRM ツール(システム)です。顧客一人ひとりに合わせた「個」の対応を行うには、バラバラに散らばったデータを統合し、チャネルを横断して「一人の人」として捉えるための「データ一元管理用のシステム基盤」が必要になります。単にデータを貯めるのではなく、顧客理解を深めるために統合された状態こそが、CRM システムのあるべき姿です。
そして、この「統合されたデータ基盤」こそが、次世代のAI活用における必須条件となります。昨今、このようにデータや組織がAIを受け入れる準備が整った状態のことを「AIレディ(AI Ready)」と呼びます。
「AIレディ」とは、単にデータが存在している状態とは異なります。
- ID統合: 店舗、EC、アプリ等のデータが、共通の顧客IDで紐付いている
- データの質: 表記揺れや不要なデータ(ジャンクコード)がなく、AIが学習しやすい状態にある
- 運用体制: プライバシーポリシーなどの法的な許諾も含め、データを活用する社内ルールが整っている
このように、AIが正しく機能するための準備が整った状態にしておくことこそが、結果としてAI活用の成果を最大化する近道なのです。

CRMを起点としたAI活用の可能性
では、データ統合が進み、「AIレディ」な状態になると、具体的にどのようなことが可能になるのでしょうか。
整ったデータをAIと組み合わせることで、AIはマーケティングの精度と効率を高める強力な「道具」となります。
1. 外部データを加味した予測と分析の高度化
従来、「雨の日は客足が落ちる」「この時期は特定の商品が売れる」といった予測は、店長や担当者の経験則に頼る部分が大きくありました。
AIレディな状態であれば、自社の統合データ(過去の購買・来店履歴)に加え、必要な外部データをAIに投入することが可能になります。
例えば、気象データや近隣イベントの情報、さらには競合店のチラシ情報などを自社データと掛け合わせることで、「気温が〇度下がり、雨予報の週末に、競合がチラシを打っていない場合、この属性の顧客層がどう動くか」といった来店予測や需要予測を、高い精度で行えるようになります。
これは単なる予測にとどまらず、フードロス削減のための在庫適正化や、無駄のないスタッフ配置といった店舗運営の効率化にも直結します。
2. 生成AIによる「個」に寄り添うハイパー・パーソナライゼーション
生成AI(Generative AI)の活用により、顧客一人ひとりに対するコミュニケーションも大きく変わります。
従来の「20代・女性」といった属性によるセグメント配信だけでなく、統合されたデータを元にAIが「個」の文脈を理解します。
- 「お子様が生まれたばかりの顧客」には、育児の悩み解消や時短アイテムを提案する
- 「ライフスタイルが変化した顧客」には、新しい生活シーンに合わせたメッセージを送る
このように、AIが顧客の状況に合わせてメッセージやクリエイティブを生成・最適化し、メールやLINE、アプリ通知で届けることができます。
しかし、ここで強調したいのは「AIにすべてを任せる」ということではありません。寧ろAIに効率化とデータ処理を任せることで、人間は人間にしかできない情緒的な価値の提供に集中できるようになるという点です。
例えば、膨大な顧客データから「今、アプローチすべき顧客」を見つけ出し、最適なタイミングを計るのはAIの得意分野です。一方で、ブランドの世界観を伝えるストーリーのある言葉選びや、店舗でお客様の表情を見ながら行う温かみのある接客は、依然として人間にしかできない領域です。
AIが事務的なレコメンドや定型的な案内を自動化してくれる分、現場のマーケターや店舗スタッフは「どうすればお客様に喜んでいただけるか」という企画の立案や、心を通わせるコミュニケーションといった、本来時間を割くべきクリエイティブな業務に注力できます。
「AIを施策の精度を高める道具」としてCRMに組み込むことは、結果として「人の手によるおもてなし」の質を向上させ、より豊かな顧客体験を生み出すことにつながるのです。
AIの時代に備えるためのデータ活用ステップ設計
AI活用を目指すといっても、いきなり高度な予測モデルを構築したり、全自動化を行ったりするのは得策ではありません。確実な成果を得るためには、正しい順序があります。
以下のようなステップで、段階を踏んで進めていく必要があります。

STEP 1:顧客データの棚卸と統合(CDP構築)
まずは「AIレディ」の土台作りです。社内にどのようなデータがあり、どのような状態で保存されているかを棚卸しします。その上で、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)などを活用して顧客IDの統合を行います。
実はこのフェーズが最も労力を要します。
- データの表記揺れ: 「株式会社」と「(株)」、電話番号のハイフンの有無など、バラバラに入力されたデータを名寄せし、同一人物であることを特定する作業(データクレンジング)は、想像以上に地味で膨大な労力を要します。
- 部門間の調整と組織の壁:店舗、EC、アプリなど、所管部門やベンダーが異なる場合、連携コストの分担やデータの主導権を巡って利害が対立しがちです。社内のリソースだけで進めようとすると、部門間のしがらみが障壁となり、「総論賛成・各論反対」でプロジェクトそのものが頓挫してしまうケースも少なくありません。
- プライバシーポリシーと法対応: 統合データを活用するには、個人情報保護法に則った利用目的の再確認や、規約改定が必要になるケースもあります。
AI本来の力を引き出すためには、こうした地道な環境整備が避けて通れません。しかし、日々の業務を抱えながら、膨大なデータの整理や複雑な社内調整を社内リソースだけで完結させるのは、膨大な時間と労力を要します。
だからこそ、すべてを自社で抱え込まず、実装経験が豊富な専門家の知見を借りることが、最短ルートで基盤を整えるための確実な手段です。
STEP 2:CRM施策の設計と実行(MA・BI活用)
データが統合されたら、まずはそれを可視化し、MA(マーケティングオートメーション)を用いて施策を実行します。
この段階では無理にAIを使わず、「誕生月にクーポンを送る」「カゴ落ち商品をリマインドする」といった、人間が考えたシナリオでの施策を確実に回せる体制を作ります。まずは人間がデータを使いこなすことが、AI活用の前段階として必須です。
STEP 3:AIによる分析・予測・最適化の導入
データが蓄積され、運用サイクルが回り始めた段階で、初めてAIが登場します。
蓄積されたデータをAIに学習させ、セグメント抽出の自動化や、レコメンド精度の向上、生成AIによるコンテンツ作成などを導入します。STEP2までの土台があるため、AIは学習データに困ることなく、高い精度で施策の効率を上げることができます。
STEP 4:効果検証と改善サイクルの構築
AIが出した結果を人間が評価し、施策をブラッシュアップするサイクルを回します。
AIは、運用データや人の手によるフィードバックを取り込むことで、より賢く・最適化されていくものです。導入して終わりではなく、継続的なフィードバックと改善を行うことで、自社独自の強力なマーケティング基盤へと育っていきます。
これから到来するAI時代に向けた準備のご相談はフュージョン株式会社へ
AI活用は、ツールを導入するだけで自動的に成果が出るものではありません。
本記事で解説した通り、CRMマーケティングに必要な地道なデータ整備(AIレディな状態作り)と、現場での着実な運用から始める必要があります。
しかし、データのサイロ化解消や、新しいツールの定着を社内のリソースだけで推進するのは、時間もノウハウも要する非常にハードルの高い課題です。
「データはあるが、統合・活用できていない」
「AI活用のための準備をしたいが、何から始めればいいか悩んでいる」
もし、このような課題をお持ちでしたら、ぜひフュージョン株式会社にご相談ください。
フュージョンは、創業から30年以上にわたり、企業のマーケティングを支援してきたCRMの専門会社です。
私たちの強みは、単なるシステム導入ではなく、「現場に根ざした実践的な伴走型支援」にあります。
フュージョンのCRM支援サービスでは、単なるツール導入や運用、提案のみのコンサルティングに留まらず、戦略立案~施策実行・効果検証まで伴走型でご支援が可能です。課題の内容に応じて貴社に最適なソリューションを提案し、伴走型で支援します。
システムを入れて終わりにするのではなく、AI活用を見据えた戦略立案も含めたサポートを行います。
AI活用を見据えたデータ基盤の構築を、まずは相談してみませんか?











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