ビジネスパーソンにとって、一年の区切りを強く意識するタイミングは 自社の会計年度の締め が近づく頃ではないでしょうか。
一般的には「会計年度」という言葉が広く使われていますが、民間企業では法的には「事業年度」と呼ばれています。本コラムでは、日常的に定着している「会計年度」で統一して表記します。
会計年度の時期は企業によって異なりますが、国や地方自治体が法律で4月〜翌3月としています。国税庁が発表した決算期別の普通法人数(令和4年度)によると、最も多い3月決算の割合は18%を占めており、そのうち資本金が1億円以上の企業に絞ると50%以上が3月決算です。
こうした企業にとって、会計年度の終盤は一年間の取り組みを整理し、翌年度に向けた方針を考える重要な節目になります。
これは、マーケターにとっても例外ではありません。一年間の施策を振り返り、成果・改善点を明確にし、次の施策計画に落とし込むことは、年度末に限らず四半期ごとのレビューや月次キャンペーン終了後の振り返りといった日常業務の一部にもなっています。
そこで本コラムでは、マーケティング実務を担う方が施策をやりっぱなしにしないための、振り返りの手順と押さえるべきポイントについて整理しました。
年度の区切りに向けた振り返りはもちろん、日々の業務改善や次のキャンペーン設計にも役立つ内容としてご活用いただければ幸いです。
| 【目次】 マーケティング施策の定期的な振り返りが重要な理由 振り返りの進め方 振り返り資料作成は次年度計画作成のはじめの一歩 |
マーケティング施策の定期的な振り返りが重要な理由
施策の振り返りは、日々の業務を単なるルーチンワークで終わらせず、組織として成長し続けるために欠かせないプロセスです。特にマーケティング業務は、仮説検証と改善の積み重ねによって成果が最大化されます。ここでは、振り返りがなぜ重要なのか、その主な理由を解説します。
1.過去ではなく「未来志向」で改善につなげるため
振り返りというと、過去の失敗を反省するイメージが強いかもしれません。しかし最も重要なのは、「過去の施策から何を学び、次にどうつなげるか・改善するか」という未来志向の姿勢です。
そのためには、事実ベースで施策を客観的に見直し、成果の背景や改善余地を冷静に判断する必要があります。振り返りは、未来の施策精度を高めるための重要なデータ源です。
2.失敗への批判ではなく、建設的な改善議論をするため
失敗施策を振り返る際に、原因を追及するあまり特定個人の失敗を感情的に責めてしまうことは少なくありません。
しかし振り返りの目的は、「個人を責めることではなく、組織として改善できるポイントを見つけること」にあります。
チーム全体で意見を出し合い、事実とデータに基づいて議論することで、再現性のある強いマーケティング運用が生まれます。建設的な振り返りの場は、チーム内の信頼関係にもプラスに働きます。
3.振り返りはゴールではなく、改善アクションにつなげてこそ価値がある
振り返り資料を作っただけで満足していませんか?振り返りはあくまでも通貨点に過ぎません。
重要なのは、「改善点を具体的なアクションとして策定し、実行まで落とし込むこと」です。改善につながらない振り返りは、単なる感想共有で終わってしまいます。
「振り返り → 改善策 → 実行」をセットで捉えることが、成果を伸ばすための必須要件です。
振り返りの進め方
ここからは、実際に振り返りを進める際のステップを紹介します。
下図に示したプロセスに沿いながら、それぞれのステップで押さえるポイントを解説していきます。

年間個別施策を俯瞰的に評価
最初に取り組むべきは、一年間に実施した施策をすべて洗い出し、俯瞰的に評価することです。
「施策の振り返りは、その都度やっている」という方もいると思いますが、年度単位での振り返りにおいて重要なのは、
- 全施策を同じ基準で評価できているか
- 自分の施策だけでなく、同じ目標を持つ他のマーケターの施策も横並びで確認できているか
の2点です。
年度全体で成果を最大化するには、施策単体ではなく施策群としてどう機能したかを見る視点が欠かせません。
年間施策の振り返りで押さえるポイントは2つあります。
フォーマットを統一し、同じ評価軸で整理する
施策資料は、目的や提出先、担当者によってフォーマットが微妙に異なるケースがよくあります。しかし、複数施策をまとめて振り返る場合はフォーマットを統一することが必須です。
年間振り返りのフォーマットを設計する際によく用いられるのが「5W+2H+R」 です。
| Why | 施策の目的(理由) |
| What | 実施した内容(人やモノなど) |
| When | 実施タイミング(時間) |
| Where | 実施チャネル(場所) |
| Who | 担当者・関係者(主体) |
| How | 実行方法(手段) |
| How much | 投入したコストや工数(予算) |
| Result | 成果(結果) |
これらの視点で全施策を並べることで、同じ評価軸で比較しやすくなり、施策全体の俯瞰性が格段に高まります。
“結果”は定量データだけではない
施策の結果というと、まずKPIなどの定量的な指標が思い浮かびます。
もちろん定量データは重要ですが、同じくらい大事なのが定性的な振り返りです。
例えば、
- 顧客の声
- SNSでの反応
- 営業やカスタマーサポートなど社内関係部門からのフィードバック
- 実施時の現場感や課題・気づき
こうした定性情報を収集し、施策ごとに反応を残しておくことが重要です。
理由はシンプルで、定量データだけでは「良かった」「悪かった」の判断しかできないためです。
定性情報を加えることで、
- なぜその結果になったのか
- どの要素が影響したのか
- どこを改善するべきか
といった考察が可能になり、施策の再現性が高まるだけでなく、翌年度の改善にもつなげやすくなります。
KPIツリーへのマッピングと評価マトリクスの作成
施策単位の振り返りがまとまったら、ここからが本番です。
個別施策の結果だけでは、部門全体での最適化や翌年度改善にはつながりません。
次のステップでは、
① 定量結果の俯瞰=KPIツリーへのマッピング
② 定性結果の深掘り=評価マトリクスの作成
の2つを行い、施策の位置づけと改善ポイントを明確にしていきます。
KPIツリーへのマッピング(定量評価を“点”から“線”へ)
施策ごとにまとめた定量結果(施策単位のKGI)は、あくまで点の指標です。
点だけを見ても、
- 施策が部門全体にどう寄与したのか
- 他施策との関係性
- 改善余地や重複領域
については把握できません。そこで必要になるのが、部門全体で管理している「KPIツリー」へのマッピングです。
KPIツリーは、KGI → 中間KPI → サブKPIという階層構造で成果の因果関係を整理したものです。
施策の成果をこのツリーのどこに位置づけるかを明確にすることで、部門全体の中でこの施策はどの役割を果たしたのかを可視化できます。
(参考:KPI設計の考え方)

各評価マトリクスの作成
KPIツリーは定量的な評価を線として確認する作業なのですが、これだけでは部分最適はできても全体最適を行うことができません。
そこで収集した定性的評価を定量的評価に加える必要があります。そこで定性的評価を単に評価がよかった点、悪かった点をリスト形式でまとめるのではなく、定性的な評価に、定量的な評価を掛け合わせた2軸のマトリクス表を作成することでより深い考察を得ることができます。

この2軸でまとめることによって、施策の評価と改善の方向性が見つけやすくなります。
例えば、定量的には成功と言えるが定性的に悪かった点があるとすれば、その悪かった点を改善すればより定量的な成功につなげることができます。
逆に、定性的な評価はよかったけど定量的には悪かった、施策として失敗してしまったというものがあれば、戦術よりそもそもの戦略が間違っている可能性もあるという発想が生まれやすくなります。
次年度に向けた改善点の整理
評価と考察を付け加えることで、振り返り資料の完成が近づいてきました。
最後に、次年度に向けた改善点を洗い出すための作業を行います。
これも定量・定性の両面から検討することが重要です。
KPIツリーからシミュレーションを実施する
まず定量面では、KPI改善のためのシミュレーションを行います。
作成したKPIツリーをもとに、
- どの中間KPIを改善すればKGI達成がしやすくなるのか
- 中間KPIを達成するために、どの要素KPI(サブKPI)が必要なのか
- 今年度の施策で不足していた点はどこか
を検討しながら、次年度に向けたKPIのシミュレーションを実施します。
この作業は、たとえ今年度のKGIを達成していたとしても行うと良いでしょう。
理由は、現状のままでも達成できるが、改善によって効率的に達成できる可能性があること、中間KPI達成のためのコストを削減し、他施策にリソースを回せる可能性があること、など次年度の施策実施効率向上につながるためです。
また、どの中間KPIをどの程度改善すれば今年の数字が達成しやすくなるのかをこの段階で把握しておくと、次年度KGIが決まった際の対応がスムーズになります。
評価マトリクスから戦略・戦術の改善点を検討する
評価マトリクスから、施策の悪かった点の傾向を読み解きます。
特に、その悪さが戦略由来なのか、戦術由来なのかを見極めることが重要です。
この判断には、施策を「ターゲット」「タイミング」「オファー」「クリエイティブ」
の4つの視点で整理することが役立ちます。
例えば、施策の「タイミング」だけが悪いと判断すれば、それ以外の視点はよかったが、「施策がいつ実施されていればよかったのか」という戦術面が改善点となります。また「ターゲット」設定が悪かったという評価が多ければ、それが戦略としてのターゲット設定が悪いのか、戦略としてのターゲット設定が悪いのかを検討する必要があります。その結果によってはSTPを見直せばいいのか、それ以前の3C分析から見直す必要があるのかが改善点としてあげることができ、その結果次年度のマーケティングプランニングをどこからやるべきかの目星をつけることができます。
フュージョン株式会社では、マーケティング基礎分析手法テンプレートを公開しています。振り返り資料作成にご活用ください。
本来は検討した改善点の優先順位までつけることができれば良いですが、優先順位はさまざまな要素も関連することを踏まえると、最低限リスト化できるだけでも問題ありません。
振り返り資料作成は次年度計画作成のはじめの一歩
今回のコラムでは、振り返り資料の作成を通じて、今年度の振り返りをどのように進めるか、その手順について解説しました。
振り返り資料を作成することにより、全社的・部門横断的にはKPIツリーを持っていても、自分や自部門が担当している施策の中間KPI・要素KPI以外がブラックボックス化しており、どこをどのように改善すべきかわからないといった課題を解消できます。
また、社内で実施した施策を単なる「点」で終わらせず、部門内外の施策を「線」として捉え、さらに俯瞰して振り返ることができるようになります。そこに考察・評価・改善点を加えることで、次年度の戦略・戦術設計へつなげることが可能になります。
一方、部門を越えて情報を収集する必要性をお伝えすると、「自部門の活動が他部門に評価されることへの抵抗感」や、「部門間の壁」を理由に難しさを感じる担当者の方もいらっしゃいます。
そのような場合には、外部パートナーの支援を活用することで、客観的で公平な視点で評価を行うことが可能になります。
フュージョン株式会社では30年以上にわたりCRM支援サービスを提供し、さまざまな業界のクライアント企業の戦略設計をサポートしてきました。施策に取り組んだあとの効果検証・レポーティングについてもご支援しています。
「実行した施策の評価ができない」
「施策結果がKPIツリーにうまく当てはまらない」
「来年度の改善点が整理できない」
など、施策の振り返りや取りまとめでお悩みの担当者様、または来年度の計画策定に向けた支援をご希望の担当者様は、どのようなお悩みでもお気軽にご連絡ください。











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