BtoB企業にとって、新規顧客の開拓は事業成長に直結する重要な取り組みです。かつて主流だった訪問営業は、テレワークの定着や購買プロセスの複雑化により効果が薄れつつあり、今ではより戦略的なアプローチが求められています。
本記事では、BtoBビジネスにおける新規開拓に有効なマーケティング施策や、デジタルマーケティングだけでは成果がいまひとつ、というときに有効なダイレクトメール(DM)の効果・事例についてご紹介します。
BtoBマーケティングとは
BtoBマーケティングとは、企業が他の企業に対して製品やサービスを提供する際に行うマーケティング活動全般を指します。単なる営業活動の支援にとどまらず、顧客となる企業の課題を特定し、その解決策として自社の製品やサービスを認知・理解してもらい、最終的に選んでもらうための一連の戦略的な仕組みづくりです。
BtoCマーケティングとの根本的な違い
BtoCマーケティングは、個人の感情や流行、個人のニーズに基づいて購買が決定されることが一般的です。一方、BtoBマーケティングは、顧客が個人ではなく組織である点に最大の違いがあります。この違いを理解することが、効果的な施策を実践するための第一歩となります。
購買に関与する人数の多さ
BtoB取引では、製品の機能を評価する現場担当者、導入の方法を検討する情報システム部門、予算を管理する経理部門、そして最終的な決定権を持つ経営層など、非常に多くの関係者が購買プロセスに関与します。それぞれの立場や業務内容、抱える課題が異なるため、各決定権者に向けた多角的な情報提供が求められます。
検討期間の長さ
企業の業務効率や売上に直結する高額な商材、あるいは基幹システムなどの導入は、失敗が許されないため、検討が非常に慎重に行われます。顧客はWebサイトでの検索や他社比較、詳細な調査を重ねるため、検討開始から導入決定までに数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。この長い期間、継続的に関係性を維持し、有益な情報を提供するアプローチが必要です。
合理的な意思決定の重視
BtoCのような「衝動買い」はほとんど発生せず、「コスト削減に具体的にどう貢献するのか」「生産性はどれだけ向上するのか」といった合理的な理由が購買の決め手となります。マーケティング担当者は、SEOによる認知獲得や施策の改善だけでなく、ホワイトペーパーなどで導入効果や費用対効果をデータで示し、顧客組織の合理的な判断を後押しする情報収集のサポートをしなくてはなりません。
BtoBマーケティングにおけるデマンドジェネレーションの全体像
BtoBマーケティングを実践する上で、見込み顧客(リード)をどのように獲得し、関係性を深め、有望な商談候補へと育てていくか、そのプロセス設計が不可欠です。潜在顧客が自社の製品やサービスを認知し、最終的に購買を検討するまでのステップを可視化し、管理するこの仕組みを理解することで、顧客の状況に応じた最適なアプローチが可能になります。この一連の流れは、特に「デマンドジェネレーション(需要創出)」とも呼ばれます。
リードジェネレーション
この購買までのプロセスの入り口にあたるのが「リードジェネレーション」です。ここでの目的は、自社の潜在顧客となり得る企業や担当者の連絡先情報、すなわち「リード」を情報収集することです。具体的な方法としては、SEO対策を施したオウンドメディア(Webサイト)への集客、業務課題の解決に役立つホワイトペーパーのダウンロードと引き換えにしたフォーム登録、展示会での名刺交換などがあります。まずは自社との接点を持ってもらうことが重要な役割です。
リードナーチャリング
獲得したリードがすぐに商談に進むとは限りません。特にBtoBでは検討期間が長いため、すぐにニーズが顕在化していないリードに対し、継続的にコミュニケーションを取り、関係性を構築していく「育成」のプロセスが必要です。これが「リードナーチャリング」です。メールマガジンでの有益な情報提供、顧客が検索で求めるような情報収集をサポートするウェビナーの開催などを通じて、顧客の課題を明確化し、自社製品への理解と信頼を深めてもらいます。定期的な調査に基づくコンテンツの改善も求められます。
リードクオリフィケーション
育成したリードの中から、営業活動に引き渡すべき「今、購買意欲が高まっている質の高いリード」を選別する段階が「リードクオリフィケーション」です。すべてのリードに組織の営業リソースを均等に割くのは非効率です。Webサイトの閲覧履歴、ホワイトペーパーのダウンロード、製品の機能紹介ページへのアクセス頻度などから顧客の関心度をスコアリングし、「今、アプローチすべき最適な相手」を見極めます。これにより、営業部門は確度の高い商談に集中でき、組織全体の業務効率が大幅に向上します。この選別の仕組みを実践し、改善し続けることが重要です。
BtoBの新規開拓に有効なマーケティング施策
1.ダイレクトメール
ダイレクトメールはBtoCビジネスでのみ有効なマーケティング手法と認識している方が多いですが、実はBtoBビジネスの新規開拓でも有効な施策です。
ダイレクトメールは、BtoBの新規開拓におけるドアノックツールの役割を果たします。具体的には、すでに取得している見込み顧客リストに対して自社のサービスを詳しく理解してもらったり、新規キャンペーンをプッシュ型で案内するケースが挙げられるでしょう。冊子やリーフレットなど保存性が高い媒体であることから、テレアポなどと異なり見込み顧客の都合の良いタイミングで閲覧してもらえる点が特徴です。
2.展示会
展示会は自社のことを認知していないものの、自社が提供しているサービス領域に興味がある見込み顧客に効率的な営業ができる施策です。ニーズがマッチする見込み顧客に対し、自社のブースでサービスについて詳しく紹介できるとともに、アンケートの記入や名刺交換でリード獲得ができる点がメリットです。
3.セミナー(ウェビナー)
セミナーは自社のサービスに興味を持っているリードに対して直接アプローチできるものです。対面式のセミナーでは、実際の商品やサービスをその場で体験してもらうなど、アプローチの仕方を工夫できる点が特徴です。
また、近年ではオンラインツールを用いて非対面で行われるウェビナーも注目を集めています。ウェビナーでは、セミナーと異なり会場までの移動コストがかからないため、参加するハードルが比較的低く、集客しやすいメリットがあります。ただし、気軽に参加できることから購買意欲が低いリードばかりが集まってしまうリスクもあるため、注意が必要です。
4.コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、顧客にとって価値のある情報を提供することで、リードや既存顧客と関係性を構築するマーケティング施策です。
新規開拓を目的としてコンテンツマーケティングを実施する場合は、サービスサイトやオウンドメディアでの発信やSNSアカウント運用などが有効です。特にBtoBビジネスは、リードが興味のあるサービスについて最新の情報や専門的な知識を情報収集するため、自社の専門性や業界における権威性をうまくアピールすることで新規開拓につながるでしょう。
5.Web広告
Web広告はまだ自社と接点がない顧客にサービスを認知してもらう、またはリードを獲得するのに有効な施策です。Web広告はリスティング広告やディスプレイ広告をはじめとして、多くの種類があります。また、専門サイトやSNS、アプリ上など、掲載できるメディアも選択できるため、自社のターゲットにマッチしたメディアを選定し、魅力を伝えられる広告種類を適切に選ぶことが大切です。
Web広告はコンバージョンに特化して配信することもできるため、短期間で新規顧客を獲得したい場合などに有効です。
BtoBで効率的に新規開拓するためのポイント
BtoBで効率的に新規顧客を開拓するためには、自社に合った施策を適切なタイミングで実施することが大切です。さらに、BtoC商材に比べてターゲットの母数が少ないことを念頭に置き、獲得したリードを手放さない工夫も必要でしょう。
ここでは、BtoBビジネスで効率的に新規顧客を開拓するために知っておくべきポイントを3つに絞って解説します。
ターゲットを明確にする
ターゲットがきちんと定まっていないと、予算をかけて多くのリードを獲得しても、最終的に受注できる確率が低くなってしまいます。自社のサービスを利用する顧客の傾向やニーズをきちんと分析し、ターゲットとなる顧客への理解を深めることは大切です。
ターゲット設定が完了した後は、カスタマージャーニーマップ(CJM)を作成し、顧客がサービスを購入するまでのプロセスを可視化することも検討しましょう。顧客の購買意欲やそれに伴う心理状況の変化を可視化することで、顧客に寄り添った適切なアプローチが可能となり、効率的な新規開拓が実現します。
インサイドセールスを活用する
BtoB商材は、BtoC商材に比べてリード獲得から受注までのリードタイムが長くなる傾向にあります。さらに、ターゲットの決算時期などの関係で営業活動と顧客の購買タイミングが合わず、コールドリードになる可能性が高い点が特徴です。
これらの見込み顧客を失注扱いにせず、長期的なコミュニケーションを取るためには、インサイドセールスが有効です。インサイドセールスとは、メールや電話など非対面のコミュニケーションを行い、リードの潜在的なニーズを汲み取りながら関係性を構築する役割です。購買意欲が高くない見込み顧客とインサイドセールスが継続的にコミュニケーションを行い、購買意欲が高まったタイミングでアポイントメントを取ることで、効率的な営業活動が実現できます。
適切な予算をとる
新規開拓は、これまで自社のことを認知していないターゲットへのアプローチや、ニーズが顕在化した顧客のリードを獲得するなど、多くのプロセスが存在します。さらに、顧客の購買意欲に応じて適切な施策を実施する必要があり、一貫性のあるアプローチを行うためにはそれなりの予算を用意する必要があります。まずは先ほど説明した通り、ターゲットを明確にし、新規顧客の購買までのプロセスに合わせてどのような施策が必要かを整理することが大切です。そのうえで、必要な施策は漏れなく実施できるよう社内理解を深め、新規獲得のための予算を確保しましょう。
BtoBの新規開拓にダイレクトメールが効果的な理由

1. 閲覧性が高い
商品やサービスの購買に関しては、企業内での購買承認まで多くの関係者が存在します。DMで商品やサービスの情報を送ることで、その関係者に閲覧してもらったり、会議で参考資料として使われたりするケースが多くみられます。
2. 保存性が高い
BtoBのターゲットは会社員です。
おそらく多忙で仕事に没頭していることが多いでしょう。デジタル情報と異なり、紙のDMは保存性が高いため、DMが届いたその時はターゲットが時間を取れなくても、資料として保存し必要になった時に見返される形で使われることもあります。
3. コストをかけることができる
BtoBビジネスは、一般的に取引変更するスイッチングコストが高く、一度取引が決まると他サービスにリプレイスされにくい特徴があります。ゆえに長期的に売上を確保できることが多く、リード獲得に費用をかけられます。このような理由からDMが選ばれています。
BtoB領域において、DMに取り組む場合は「誰に」「何を」「どのタイミングで届けるか」を明確にできれば、見込み顧客へのアプローチ手法として高い効果を発揮します。購買決定に複数の関係者が関わるBtoBでは、最初の接点でいかに関心を引き、記憶に残るかが重要です。
実際の設計ポイントや成功に導くためのコツについては、こちらのコラムで詳しく解説しています。
BtoBの新規開拓でダイレクトメールを活用する手順
Step1:目に留めてもらう
ダイレクトメールは、郵便物を受け取った人から社内の担当者の手元へ届けてもらう必要があります。そのためには、他のセールスレターやチラシとは異なり「重要なもの・必要なもの」だと感じてもらう工夫が大切です。例えば、ダイレクトメールの形状を封書やハガキではなく、箱型にしてインパクトを出すなどが挙げられます。他にも、宛名に部署名を明記することも効果的な工夫のひとつです。このように、数ある郵便物の中で目に留めてもらえるような工夫を考えましょう。
Step2:直感的にサービス内容を理解してもらう
担当者の手元に届いてからレスポンスを得るためには、ターゲットとなる担当者が自社に必要なサービスの案内だと直感的に理解してもらうことが重要です。BtoB商材の場合、サービス内容が複雑な場合もありますが、文章だけではなく図やグラフを取り入れながら、サービスをひと目で理解してもらえるよう内容を工夫しましょう。
わかりやすい表現を心がける際には、ターゲットがサービスを導入したことで得られるベネフィットをきちんと理解してもらうことです。例えば業務効率化サービスの場合などは、導入企業の事例を掲載し、サービスを導入する前と後の社内の残業時間を数値で表現すると有効でしょう。
Step3:フォローアップコールとの組み合わせで相乗効果を発揮
実は、DMは電話との相性が良いメディアです。紙のDMはデジタルの広告と比べて保存性が高く、一定期間は保管してもらえることが期待できるため、その期間に電話でのフォローを行います。
DMの見た目が特徴的であれば、「紺色の封筒が届きませんでしたか?」とスムーズに営業トークへ入ることができます。
お客様がDMに目を通していた場合、「見たよ!○○って書いてあったけど、本当なの?」と話題が広がりやすくなります。また、手元でDMを見てもらいながらのサービス説明も可能です。電話のみのアプローチだと確度がなかなか高まらない...という場合は、DMとセットで相乗効果を狙うことをおすすめします。
ダイレクトメールを活用したBtoB新規開拓の事例
事例1:株式会社リクルートマーケティングパートナーズ(現リクリート)様

まずは、英語教育ツール「スタディサプリENGLISH法人サービス」を提供する株式会社リクルートマーケティングパートナーズ(現株式会社リクルート)様の事例を紹介します。
同社は新規獲得のKPIを資料請求数に定めていましたが、ターゲットである人事部長に、ダイレクトメールを通して、どのように開封から資料請求・問い合わせまでのアクションを促せるかに課題を感じていました。
そこで、ダイレクトメールでは開封してもらうための見た目のインパクトと、そのインパクトに引けを取らない開封後の面白さに重点をおきつつ、サービスの良さを伝えられるクリエイティブに仕上げました。
クリエイティブではまず、必ず開封してもらうために、封筒を箱型にして他社の郵送物と差別化を図りました。さらに1回目と2回目それぞれの内容に、「サービスの魅力」を直感的に伝えられ、よりインパクトを与えられる工夫をしています。
<1回目:単語帳DM>
アナログ学習の代表的ツールである単語帳を模した「ホンネの英単語」を制作し、ダイレクトメールに同封しました。単語帳には人事責任者の「担当者」と、研修を受ける「受講者」それぞれのホンネを収録し、研修をデジタル教材に入れ替えると双方にとって効率化できることをアピールしました。
<2回目:鰹節DM>
2回目は「コストを削る」を「鰹節を削る」にかけて、ダイレクトメールに実際の鰹節を同封しました。桐箱に入っている鰹節パック3個には、それぞれ「削る」というメッセージを記載し、「スタディサプリを導入すると、大幅にコスト削減可能」というメリットをリーフレットで訴求しました。
この2通のダイレクトメールは大きな反響を集め、約150社から資料請求を受け、そのうち32社が本申込をしました。
なお、本ダイレクトメールは第35回全日本DM大賞でグランプリを受賞しています。詳しくは以下で紹介しています。
事例2:ピツニーボウズジャパン株式会社様
最新の郵便料金計器や、封入封かん機を販売しているピツニーボウズジャパン株式会社様では、地方自治体に対してこれらの商品を拡販するためにダイレクトメール施策を実施しました。
今回のダイレクトメールで特に注意したのは、送付タイミングとダイレクトメール送付後のフォローアップです。
ターゲットである地方自治体では、来年度の予算方針の提案が10月に行われるため、各部署での予算計画検討は8月頃から開始されると予想できました。そのため、ダイレクトメールが8月初旬には担当者の手元に届くよう、7月末に投函しました。
さらに、ダイレクトメールを送付した後にフォローアップコールを行うことで、ターゲットがサービスを認知した状態で電話営業を実施でき、短期間で想定2倍となる計104件のリードおよびアポイントを獲得しました。
なお、本ダイレクトメールは第32回全日本DM大賞で特別賞を受賞しています。詳しくは以下をご覧ください。
事例3:CCCマーケティング株式会社様

CCCマーケティング株式会社様では、過去に自社データを利用した顧客のうち、2年以上利用が途絶えている休眠顧客の掘り起こしにダイレクトメールを利用しました。
これまでは営業人員が限られていたことから、休眠顧客に対するフォローアップまで手が回っていませんでした。そこで多くのターゲットへ効率的にアプローチできるダイレクトメールを利用して、売上拡大を狙いました。
ダイレクトメールでは、ターゲットの業種に合わせて9種類の表紙と内容を作り、それぞれの業種にピンポイントでアプローチできるセールストークを盛り込むよう心がけています。さらに、サービスを紹介するリーフレットは単純な冊子ではなく、絵本風に仕上げることでサービスの内容をわかりやすく、具体的に説明しました。
結果としてダイレクトメールの送付からわずか1ヶ月で41社との商談獲得を達成しました。
また、こちらのダイレクトメールは第32回全日本DM大賞で金賞を受賞しています。以下で詳しく紹介しています。
アナログとデジタルを組み合わせて効率的な新規開拓を
BtoBビジネスの新規開拓はターゲット企業の総数がBtoCに比べて少なく、担当者のリードを獲得するにも難易度が高いものです。従来型の訪問営業だけではなく、ダイレクトメールやWeb広告など、アナログとデジタルを利用しながら顧客の購買プロセスに合わせて適切にアプローチすることが重要です。
フュージョン株式会社が提供するBtoB向けダイレクトメールサービスでは、全体の戦略設定から企画・制作、効果検証までをワンストップでサポートしています。
BtoB商材におけるダイレクトメール施策を検討している場合は、ぜひ一度フュージョン株式会社へお問い合わせください。












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