
フュージョン株式会社は、10年以上連続で全日本DM大賞を受賞しています。
どのDM施策も、課題解決というゴールに向かってクライアント企業に伴走し、試行錯誤を重ねたものばかりです。
DMというと、つい「販促ツールの1つ」だと捉えがちですが、受賞事例には販促の色を全面に押し出していないものも多くあります。”お客様への手紙である”というDMの原点に立ち返って丁寧にメッセージを綴ったことが、結果的に高レスポンスに繋がりました。
今回は、そのうちのBtoC事例2つを通し、制作背景や想いを届けて人を動かす仕掛けについて詳しくご紹介します。
顧客ロイヤルティとは
顧客ロイヤルティとは、顧客が商品やサービスに対して愛着を持っている状態を指し、高い・低いで表される指標です。顧客ロイヤルティが高い顧客は、商品に満足しているだけではなく、企業や商品の理念・コンセプトに共感しています。これらの顧客はいわゆるファンであり、知人や友人に該当の商品を勧めるなど積極的な行動を取る傾向があります。
顧客ロイヤルティと顧客エンゲージメントの違い
顧客ロイヤルティと同様に「顧客エンゲージメント」という言葉にも触れたことがあるでしょう。どちらもプロダクトやサービスと顧客の関係性を表す言葉です。混同しやすいこの2つがどのように違うかについて解説します。
ロイヤルティを直訳すると「忠誠」です。マーケティングにおいては、顧客がプロダクトやサービスにどの程度愛着を持っているかを示す言葉として顧客ロイヤルティと言われています。顧客ロイヤルティには企業やブランド・商品に対する好意的な感情を表す「心理的ロイヤルティ」と、購入金額など企業に対する直接的な貢献を表す「行動的ロイヤルティ」の2つの面があります。
顧客エンゲージメントとは「企業と顧客の信頼関係」「その信頼関係を築き上げる行動」を示します。エンゲージメント(engagement)という言葉自体は直訳で「契約」「約束」などの意味ですが、マーケティングにおいては顧客と企業の間に生まれる親密な関係性を表す言葉として使用されます。具体的には、企業が発信するSNSでの投稿につくいいね・コメントは顧客エンゲージメントの分かりやすい例でしょう。企業が発信した情報に対して顧客がその情報を信頼し、評価したことが可視化されているからです。
購買でいえば、その顧客が何度店舗を訪れたか、何度購入したか、合計でいくら購入したか、会員登録は完了しているか、といった尺度で可視化された「信頼」がマーケティングにおける顧客エンゲージメントです。
CRMに取り組むうえで顧客ロイヤルティが重要視される理由
デジタル時代の到来とともに、顧客とのつながり方は大きく進化しました。企業と顧客の「信頼関係」を可視化する顧客エンゲージメントは、SNSのいいねやコメント、来店頻度や購買履歴といった行動データを通じて、顧客の関心や関係性の深さを示す重要な指標として注目されてきました。
一方、私たちフュージョンが重視しているのは、その先にある顧客ロイヤルティの醸成です。
エンゲージメントは“関係性”、ロイヤルティは“共感と継続”
顧客エンゲージメントが「今、この瞬間のつながり」であるとすれば、顧客ロイヤルティは「長期的な信頼と愛着」によって支えられた関係です。エンゲージメントは時に一過性の行動にも現れますが、ロイヤルティは顧客の深い共感に基づき、LTV(顧客生涯価値)を大きく左右する持続的な関係性を意味します。
特にBtoC市場において、商品スペックや価格だけで差別化が難しくなっている今、企業の理念や世界観に共感し、他社に乗り換えにくい“ロイヤルな顧客”を育てることこそが、CRM戦略の成功を左右する鍵なのです。
コトラーが語るCRMの最終ゴールは「推奨」
フィリップ・コトラーが提唱した「マーケティング4.0」では、カスタマージャーニーのゴールは「購買」ではなく「推奨」であると明示されています。単に買ってくれる顧客ではなく、自らの意思で周囲にその商品やブランドをすすめてくれるファン——それがロイヤルカスタマーです。
ロイヤルカスタマーの維持・育成はLTVの最大化につながるものであり、それを生む源泉が顧客ロイヤルティの最大化なのです。
顧客ロイヤルティを高めるメリット
顧客ロイヤルティの重要性を理解できたところで、改善・向上に取り組むことで具体的にどのようなメリットがあるのかも見ていきましょう。
まず、顧客ロイヤルティが高い顧客は継続的にその企業・ブランドの商品やサービスを購入してくれます。リピート購入やクロスセル・アップセルの確率が高まり、収益の安定化が期待できます。
次に顧客ロイヤルティが高い状態にある顧客は自主的にポジティブな口コミを発信してくれます。ロイヤルティの高い既存顧客が潜在顧客に向けてプロモーションをしてくれることで、新規顧客の獲得へとつながります。
顧客ロイヤルティを向上させたDM成功事例
ここまで顧客ロイヤルティとはどのようなものなのかを中心に説明してきました。ここからは実際に顧客ロイヤルティを向上させた施策事例について、全日本DM大賞受賞作品から紹介していきます。
【金賞・審査員特別賞クリエイティブ部門受賞】遠くペルーから香りで届く物語、パロサント入りDM
▼クライアント
株式会社DINOS CORPORATION様
▼課題感は、新たなビジョンメッセージの訴求
通信販売ブランド「ディノス」を運営するDINOS CORPORATION様では、2019年に新たなビジョン「モノがたりで、くらし、たのしく。」を策定し、商品の背景や想いまでを届け伝える存在でありたい、という企業姿勢を打ち出しました。
そこで、お客様へのビジョンの浸透を目的として、ディノスの超優良顧客(ロイヤルカスタマー)へ向けた有効な施策がないかと、フュージョンにご相談いただきました。
▼単なる品物ではなく、想いを届ける”モノ”を
同社は以前にも超優良顧客向けにノベルティを送付していましたが、お米をはじめとした実用品が中心で、「なぜそれを贈るのか」の意味が十分に訴求できていなかったといいます。そのような課題を踏まえて、フュージョンでは同社のビジョンを体現できるよう、ストーリー性が高くお金で買えない付加価値のあるノベルティを通して、超優良顧客に今まで以上にディノスのファンとなってもらえるような施策をご提案することにしました。
折しも問い合わせをいただいたのは2020年4月。初めての緊急事態宣言下、「おうち時間の充実」や「行き場のない不安感を癒やせる何か」は、ビジョンメッセージともマッチした大きなテーマでした。
▼癒やしや幸福までを届ける、そんな想いで企画を作成
「パロサントの木を贈る」。それが、フュージョンが複数提案した中で採用された企画でした。パロサントとは南米に自生する香木で、甘くさわやかな香りがリラックス効果をもたらすといわれています。また、ペルーでは昔から”聖なる木”として幸福をもたらすと重用されており、物だけでなく想いまでを伝えるノベルティとしてピッタリだとご評価をいただいております。様々な企画を練る中で「これだ!」と手応えを感じていた企画でしたので、採用になったときは大変嬉しく思いました。
▼この企画ならではの確認事項も
パロサントの木を主役に、クリエイティブを完成させていきました。送付時期は12月だったため、クリスマスデザインの靴下にパロサントを挟み、贈答品としてのクオリティを向上させました。封筒には、パロサントが透けて見えるようにトレーシングペーパーを採用することで、開封率UPも考慮しました。コロナ禍に受け取ったお客様には、少しでも華やいだ気持ちになって欲しいと考え、クリエイティブ全体を組み立てました。
また、デザイン制作や印刷手配の他にも本企画ならではの工程がありました。パロサントの取り扱いに関する「在日ペルー大使館への連絡」です。
DINOS CORPORATION様から、パロサントが環境に配慮された製品なのかというお問い合わせをいただき、ペルー大使館の商務部に確認をしたところ、ペルー政府の政令により、パロサントの木はそもそも伐採が禁止されているが、自然に折れ、枯れかけて香木として熟成したものだけは製品化が許可されているということが分かり、DMの実現に至りました。
また、この連絡がきっかけとなり、ペルー大使館でもこのDMを展示いただいているそうです。
▼DMの効果と評価
実際にDMが届いたお客様からは、
「パロサントの優しい香りで気持ちが安らいだ」
「素敵なプレゼントが届き嬉しい」
など、喜びの声がいくつもありました。
また、ディノスの会員ステージ最上位である「ダイヤモンド」から「プラチナ」にランクダウンしていたお客様のうち、「ダイヤモンド復帰率」は8%を達成しました。これは、未送付者の復帰率と比較して4倍もの成果となり、約8か月間に渡って準備を進めてきた本DMは、より一層の顧客ロイヤルティの向上に繋がる施策としてDINOS CORPORATION様にご評価いただいています。ディノス商品へ好感を寄せる声も多数あり、ノベルティと商品の双方の軸から、これまで以上にディノスファンになってもらえる施策となりました。
【銀賞受賞】受験生と保護者の不安に寄り添う、お悩み解決帳DM / 受験生と呼ばれる日が近づくキミヘ、受験の歩き方DM
▼クライアント
株式会社東京個別指導学院様
▼今回は、社内リストを活用した新たな施策にチャレンジ
東京個別指導学院様は、小中高生を対象に完全オーダーメイドの個別指導サービスを展開しています。
新規入塾者の獲得において、塾や予備校のプロモーションは、マスメディアを使った実績のアピールが強い傾向にあり、東京個別指導学院様も以前までは同様の傾向がありましたが、ここ数年は「社内にある既存リストを活用してできるマーケティング施策」に取り組んできました。
その中でフュージョンは、下図のようなブリーフィングシートを活用し、現状把握と課題抽出のため東京個別指導学院様とディスカッションを行いました。クライアントだけでなく、その先のDMを受け取るお客様に対する理解を深めるためです。
こうしたインサイトや課題の整理は、効果的なDMの企画には欠かせません。
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こうしたディスカッションを経ながら、新たな取り組みとして2つの訴求軸・ターゲットへ向けたDMを企画し実施しました。1つは、過去に入塾したことのある新高3生へ向けた再入塾を促す訴求、もう一つは、入塾間もない受験生を持つ保護者による紹介を促す訴求です。この新しい取り組みが、好評を博し、第34回、第35回と全日本DM大賞連続受賞に至っています。東京個別指導学院様も保有リストの活用方法に改めて目を向け、より効果的な訴求に向けてチャレンジを続けています。
そういった中、今回の施策は、過去に実施した2つの訴求軸で同様のターゲットへ向けた訴求であることから、過去を上回る提案への期待は大きく、プレッシャーのかかる中での企画立案でした。企画立案においては、いわば過去の自分自身がライバルという環境の中、改めて、生徒や保護者へ親身に接する東京個別指導学院様の姿勢を伝えるため、クリエイティブの見せ方、DMの仕様やご予算含め、ベストな方法を模索してきました。
▼それぞれのターゲットへ寄り添う姿勢をコンセプトに
1つ目の新高3生へ向けた訴求では、「受験生の歩き方DM」として企画をご提案しました。
進級したばかりでまだ部活も現役の新高3生にとって、受験は「まだ先のイベント」と感じている場合も少なくないようです。少しでも早く受験対策を始められるよう、受験生にとって必要な情報を届けることで、初めの顧客ロイヤルティ向上の機会を作り、いち早く受験生としての自覚を持っていただくことを考えました。また、改めて東京個別指導学院の価値を伝えることで、再入会を促すことを目的に設計しました。

今回の「受験の歩き方DM」は、受験までの1年間を旅になぞらえ、合格に必要なToDoを書き込んでいく仕組みにしました。合格までの道筋には、ガイドとして同社の講師が登場します。かつて高校受験の時にもそうだったように、大学受験でも頼れる存在なのだと認知してもらえる内容にしました。
もう一方の「お悩み解決帳DM」で目的としたのは、通塾している子どもの保護者に、子どもの友人や兄弟を紹介していただき入塾につなげることです。そのためには、同社ならではのホスピタリティを丁寧に伝え、ベネフィットを感じていただくことで、「良い塾に入って良かった」と思っていただくことが重要です。送付対象は3か月以内に入塾した受験生の保護者とし、子どもとのコミュニケーションで生じる悩みの解決をコンセプトとしました。進級したてや受験直面など、時期によっても悩みはさまざまなため、「お悩み解決帳」にはシーンに応じた解決方法を掲載。1年を通じて同社が頼れる協力者であると訴求するとともに、長期での保存も促せるクリエイティブに仕上げました。
▼DMの効果と評価
「受験の歩き方DM」では、送付直後の4月末時点での昨対比1.9倍の問い合わせ数を獲得しました。「お悩み解決帳DM」では送付直後の7月の昨対比116%の紹介問い合わせに繋がり、特に兄弟の紹介は130%の伸長を見せるなど、大きな成果に繋がりました。DMが顧客ロイヤルティを向上させ、新規顧客の獲得に結びついたといえます。
新入試制度やコロナの感染拡大など、不安なことの多い状況の中、東京個別指導学院の寄り添う姿勢と頼もしさをDMで丁寧に伝えました。
フュージョンでは、DM企画設計用ブリーフィングシートを公開しています。貴社のDM企画設計にお役立てください。
ご紹介したのは、いずれも販促の色を大きく出さずに、お客様に寄り添うメッセージを丁寧に訴求した事例です。とはいえ、ただ丁寧な手紙というだけではありません。お客様の行動を促すロジックがあります。
DINOS CORPORATION様の例では、売りの訴求による短期的なアップセルではなく、企業姿勢を丁寧に伝えることで長期的な顧客ロイヤルティ向上を促していきました。
東京個別指導学院様の例で言えば、「受験は今から取り組むべき」という気づき・体験を与え、頼れる塾というベネフィットを提示することでロイヤルティを高め、入塾というアクションに繋げる導線設計をしています。
インサイトに訴えるメッセージと、行動を促すロジカルな構造との組み合わせが、結果に結びつきました。